いわゆる「禪語」が漢字なのに対し、「世語」は巷間で使われている言葉で禅意を表そうとするものです。和歌や俳句、時にはその時代の落首までもが世語には含まれています。
禅林世語集(ぜんりんせごしゅう)
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- ああ春なるか花の雲。
- ああまま世は成合の其の儘に良しと云うとも惡しと云うとも。
- 相見たがいは此の世の習いこれを離れて道立たず。
- 逢いたい見たいと案じて居たが逢うて初めて安堵した。
- 逢い見ての後の心に較ぶれば昔は物を思わざりけり。(中納言敦忠)
- 逢えぬ時には文月書いて便り菊月松葉月。
- 逢えば互いに捨言いうて逢わにゃ戀しと泣くであろ。
- 青くとも侮るまじく唐辛子。
- 仰むいて見るばかりなり今日の月。
- 曉の憂き別れにもこりやらで逢うて嬉しき戀の手枕。
- 曉のつげのまくらをそばだてて聞くも悲しき鐘の音かな。(新古今.藤原俊成)
- あがりたり又おちぶるる物と知り釣瓶の水もむざと使うな。
- 秋來ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる。(古今.藤原敏行)
- 秋なれや月を追う雲逃げる雲。
- 秋の暮れ嬉しや今日も腹立たず。
- 秋の月霧にぬれぬは露ばかり水ばかりかは雲ばかりかは。
- 秋の野の草の葉毎におく露のそのほどほどにうつる月影。
- 秋の野を手に提げて行く蟲籠哉。
- 秋の夜の長き眠りの醒めしよりよそには聞かぬ萩の上風。
- 秋の夜の眠りに醒めて鐘の音數えて見れば二つ三つ四つ。
- 商いが兩手叩いて出來るなら隻手の聲は聞くに及ばず。(白隱禪師)
- 商いが直に片手の聲じゃもの兩手叩くはいらぬ御苦勞。
- 諦めましたよ實ない人に心まかすも無駄な事。
- 諦めましたよどう諦めた諦められぬと諦めた。
- 安藝の宮島廻れば七里浦は七浦七惠比壽。
- 惡に強けりゃ善にも強い澁柿變じて即菩提。
- 惡をやめ善をなす人有るならば助け透せよ彌陀の誓願。
- 明けの鐘一つふやして七つにしたい話殘ったことがある。
- 憧憬れて出て行く後の芝の戸に月こそやがて入り代わるらむ。
- あこの横町の南瓜の親父いつもたんぽの肥えかける。
- 朝顏に釣瓶とれられて貰い水。(千代女)
- 朝顏は仇なるものと思いしに花より先に落つる露かな。
- 朝な夕なに眺めて居れど心なければ屁乎風乎。
- 朝寢して晝寢が好きで宵寢坊たまたま起きて居眠りをする。
- 朝寢する人は烏が屋根裏で阿呆阿呆と啼くがわからず。
- 朝ぼらけ鳴く鶯の初聲は雲の晴れ間に梅を見よとか。
- 朝夕に手足も顏も洗うなら心の垢もすすぐべきなり。
- 朝夕になでさすりたる黒髮も老いて白髮となりにけるかも。
- 朝夕の口より出づる佛をば知らで過ぎにし程ぞ悲しき。
- 朝夕の心の紙に修身の文字を畫がきて護れ人人。
- 朝夕の飯さえこわし柔らかし思うままにはならぬ世の中。
- 淺緑澄み渡りたる大空の廣きをおのが心ともがな。(明治天皇)
- 淺き瀬は波風高く聞こゆれど深き浦には音はなきなり。
- 淺草に刈りこめられしきりぎりす馬の上にて鳴き鳴きぞゆく。
- 淺間しや胸の煙(炎)が消えやらで我と我が身を燒かんとぞする。
- 淺間しや思えば日々の別れかな明日の今日に又も逢わねば。
- 麻絲の長し短し六つかしや有無の二つにいつか離れん。(太田道灌の妻)
- 惡しきとて只一筋に捨てるなよ澁柿を見よ甘柿となる。
- 足なくて雲の走るもあやしきに何をふまえて霞立つらむ。
- 足無しの蛇が匍うたり口なしの蝉の聲きく耳なしの魚。
- 足に任せて世界を廻り心の觀察愉快なり。
- 明日ありと思う心にひかされて今日も空しく暮らしぬる哉。
- 明日ありと思う心にひかされて今日も空しく夕暮れの鐘。
- 明日ありと思う心の仇櫻夜半に嵐の吹かぬものかは。(親鸞上人)
- 明日も亦朝とく起きて勤めんと窓に嬉しき有明の月。
- 明日よりは仇に月日を暮さじと思いながらも又暮らしつつ。
- あだに身を思い亂すな黒髮の一筋とても親のかたみぞ。
- 頭かくして尻隱さず。
- 熱海山峯にたなびく白雲の見ゆるは梅の盛りなりけり。
- 暑き夜やうつつに探す澁團扇。
- 暑しとも云われざりけり煮えかえる水田に立てる賤を思えば。
- 有ってなき角おもしろや蝸牛。
- あてがありゃこそ晝寢もするよ犬も歩けば棒に逢う。
- あとは皆空の物ぞと思い知れいとど長閑けき春の山風。
- 姉がさすなら妹もさしや同じ蛇の目の唐傘を。
- あの子好い子じゃ好い子の守じゃあの子抱きたや守ともに。
- あの山を我が物にして田植え哉。
- 阿耨多羅三藐三菩提の佛達吾が立つ杣に冥加あらせ給え。(傳教大師最澄)
- 阿部の安那(保名)が子別れよりも今朝の別れが猶つらい。
- 雨雲の隔つる月の心とは知らで今宵をかねて待ちつる。
- 雨だれにくぼみし軒の石みても堅きわざとて思い捨てめや。
- 天津風雲の通い路吹きとじよ乙女の姿しばし留めむ(百人一首、僧正遍照)
- 天津日の惠みつみ置く無盡藏鍬で掘り出せ鎌で刈り取れ。(二宮尊徳)
- 行脚路は關所越えても亦關所五十三次馬の屁のかず。
- 行燈の消ゆれば蚊帳の匂い哉。
- 安樂の傳授というも外ならずただ足る事を知るまでの事。
- 雨あられ雪や氷とへだつれど落つれば同じ谷川の水。(一休和尚)
- 雨か霰(あられ)か霞かとけて今は嬉しや春の雪。
- 雨といえ雪やあられととへだつれど降りくるものはただの大空。
- 雨の降る日は天氣が惡い兄貴わしより年が上。
- 雨は降って來るうらの薪やぬれる、背中で餓鬼や泣く飯やこげる、それにお主はどこへやら、ほんに浮き世は辛いもの。
- 雨は降る薪は濡れる日は暮れる赤子の泣くに瘡の痒さよ。
- 雨は降り出す乾物はぬれる飯はこげつく餓鬼は泣く。
- 雨は降り出す下駄の緒は切れる犬は吠えつく戸はあかぬ。
- 雨降りお月さん雲のかげ、お嫁にゆくときゃ誰とゆく、一人で傘さしてゆく、傘ないときゃ誰とゆく、シャラシャラ、シャンシャン鈴つけた、お馬にゆられてぬれていく。
- 天地の一つ心を染め分けて千種の色に現れにけり。
- 天地の和して一輪福壽草咲くやこの花幾世經るとも。(二宮尊徳)
- 天地や無言の經を繰り返し。(二宮尊徳)
- あやしきもあやしからぬも人毎にとがむる人の心和らばや。
- 綾や錦でうき身を飾る辻の地藏さん笑い出す。
- 鮎は瀬に住む鳥や木に宿る人は情けの蔭に住む。
- あらい風にもあてまい樣をやろか信濃の雪國へ。
- あら海に船から投ぐる氷かなとくればすぐに海となるなり。
- あら樂し虚空を家と住みなして須彌の御腕に獨り寢の床。
- あら樂し思いは晴るる身は捨てる浮き世の空にかかる雲なし。
- あら樂し月雪花を忘れては浮世の善惡(さが)も知らず寢にけり。
- 嵐山花も紅葉も散り果てて月は渡るる大井川かな。
- 荒き夜風もなれなれて輕く吹かるる柳腰。
- 荒磯に碎けてかかる月影を一つになして歸る白浪。
- 荒磯の岩に碎けて散る月をまどかに乘せて歸る浦浪。
- 荒磯の岩に碎けて散る月をまどかに寄せて歸る白浪。
- 荒磯の浪もえよせぬ高岩にかきもつくべき法ならばこそ。(道元禪師)
- 有明にともす油は菜種の花よ蝶が焦がれて逢いに來る。(風城景春)
- 有りといい無しという名に迷い來て夢の世になお夢をこそみれ。
- 有りという人に地獄はなかりけり無しと思える人にこそあれ。
- 有りと言えば有りとや人の思うらん霜にのこれる菊のありかを。
- 有りと見て無きこそ元の姿なれとはいうものの霑(ぬ)るる袖かな。(太田道灌の妻)
- 有りと見て無きは常なり水の月。(瓢水和尚)
- ありがたや師の恩思う如意のあと。
- 蟻の思いも天迄とどく。
- ありの實を梨のつぶてがぶち碎き。
- ありの實も梨も一つの木の實(此の身)にて食う(空)に二つの味わいなし。
- あるぞえあるぞえ。
- 有る角も出さねばまろし蝸牛。
- 有ると言えば有りとや人の思うらん濱の松風音許りして。
- 有る無しの世の有樣をよく見れば水と氷の名のみ變わりて。
- 有る無しはのがれぬものぞ諸人よ昨日の夢が今日も醒めねば。
- あれを見よ鳥邊の山の夕煙それさえ風に遲れ先立つ。(一休和尚)
- あれに見ゆるは茶摘みじゃないか茜だすきに菅の笠。
- 淡路島通う千鳥に文ことづけて若しも知れたら須磨の浦。
- 哀れなる深山の奧の住居こそ松の下葉を隱れ家にして。
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- 井の端に遊ぶ子よりも危なきは後生願わぬ人の身の上。
- 井戸端に遊ぶ子よりも危なきは後生願わぬ人の身の上。
- 言い過ぎな飮み食いすぎな口からは病は這入る禍は出る。
- 言うならく奈落の底へ入りぬれば刹利も首陀も變わらざりけり。(醍醐天皇)
- 言う人の尊き賤しき選ばずば良き言の葉を我が事とせよ。
- 言うまいと思えど今日の暑さかな。
- 言えば憂し言わねば胸に騒がれて思わぬ先や佛なるらむ。
- いえいえ兄さんあるぞえあるぞえ高うは言われぬこれ斯樣斯樣。(忠臣藏)
- 家は借り物親も子も無し南無酒如來助け給え。
- 家持ちがたな借りになる世の習い盛りの時に用心せよ。
- 鑄掛けても鑄かけても地金にならぬ古藥缶。(白隱禪師)
- いかさまに三度はくどし時雨かな。
- いかだ乘り實で乘るか浮氣で乘るか浮氣流して實で乘る。
- 如何なれば教えなくとも迷うまじ元きし道に還る身なれば。
- 如何なれば雪や氷と隔つらん落つれば同じ谷川の水。
- 如何にして筑紫の海による波の千重に一重も君に報いん。
- 如何にして慰むものと世の中を厭わで過ごす人に問わばや。
- 如何にせん頼む蔭とて立ち寄ればなを袖ぬらす松の下露。(太平藤房)
- 如何にせん嘆かしとても悲しさの心に余る秋の夕暮れ。
- 如何にせん身を萍の荷を重み露の住家やいづくなるらん。
- いかりをろして屆いておれど主は帆あげて知らぬ顏。
- いかりをば沈むる時は世の海の浪風とてもいとわざりけり。
- 生き死にと世の果てなきをよく見れば氷と水と名のみ變わりて。
- 生き死にの理り知らぬ坊さまは犬の衣を着たるなるべし。
- 生き乍ら死人となりてなり果てて思いの儘にするわざぞよき。(無難禪師)
- 生き乍ら地獄に落つる者は誰ぞ臨濟の喝徳山の棒
- 幾度か思い定めて替わるらん頼むまじきは心なりけり。
- 幾度も思い定めて變わるらむ頼むまじくは我が心なり。
- 幾度も生まれ代わりて濟度せん流轉の衆生あらん限りは。
- 池に夜な夜な影さす月もよごれよごれは水のわざ。
- 池水に夜な夜な影は映れども水も濁らず月も汚れず。
- 池水に夜な夜な月は通えども影も止めず跡も殘さず。
- 池水の底にも清き影見えていづれとつかぬ山吹の花。
- 池水は人の心に似たりけり濁り澄むこと定めなければ。
- いさかいはげに山彦のこだまかな我が口故に先もやかまし。
- 勇むとも手綱ゆるすな人間は彼の塞翁が萬事春駒。
- いざや渡らん彼の岸に、吾れ人のみか世にこえし、聖とともに御佛の、道を得ること樂しけれ。(新井石禪)
- 十六夜や我が身に闇のはじめ哉。
- 石川や濱の眞砂は盡きるとも世に盜人の種は盡きまじ。(淨瑠璃)
- 石童丸は父を尋ねて高野の山へ。
- 石に添うても苦勞を遂げて咲くが誠の苔の花。
- 石に立つ矢のありとは聞けど何故か屆かぬ我が思い。
- 石にもせよ金にもせよ思うて叩く無間の鐘。
- 伊勢近し屋花が上の鰯雲。(巴人)
- 伊勢の海千尋の底の一つ石袖ぬらさずに取るよしもがな。
- 伊勢の海千尋の底の一つ石袖もぬらさで取るよしもがな。
- 伊勢の海の清き汀はさもあらばあれ我は濁れる水に宿らむ。
- 伊勢の津よりも松阪よりも心とどむる朝熊山。
- 伊勢は津で持つ津は伊勢で持つ尾張名古屋は城で持つ。
- 伊勢へ七度高野へ三度愛宕山へは月參り。
- 急がずば濡れざらましを旅人の後より晴るる野路の村雨。(太田道灌)
- 急げ人御法の船の出ぬうち乘り後れなば誰か渡さん。
- 磯の風をば凌いだ松は操正しい若緑。
- 徒らに思いし峯の一つ松今宵の月ぞ冴え渡りけり。
- 徒らに今日も暮れぬと告ぐる鐘にこたえて御落つる我が涙かな。
- 徒らに過ぎにし月日の偲ばれて殊更惜しき年の暮れかな。
- 徒らに過ぐる月かと思うなよ命をせむる使いなりけり。
- 徒らに枕を照らす燈火も思えば人の油なりけり。(行誡)
- 一代の守り本尊訪ぬるに吾れ人と共に飯と汁なり。
- いちにお命二つに福徳よ三は切れ目か一休菴。
- 一日やお祭り後のわら人形。
- 一念の怒り腹立つ其の時は頭に角の現れにけり。
- 一念の中より迷う雲起こり輪廻永劫闇路とぞなる。
- 一年の計は元旦に在り1日の計は朝に在り。
- 一富士二鷹三茄子。
- 一富士に鷹司町の夢初めなす事する事どれも目出度し。
- 一佛は何處に在すと尋ぬる人に尋ねる人の胸のあたりに。
- 一文や二文は何とも思うなよ阿彌陀も錢で光る世の中。
- いつ來ても又いつ來ても同じ事一寸ここらで死んで見ようか。
- 何時の日の如何なる時か野邊に送られん時も處も定めなければ。
- 何時の日の如何なる時か又も見む此の曙の不二の高嶺を。
- 何時の世も世間知らずの義理知らず情け知らずが金持ちとなる。
- 何時迄かほむると聞けば嬉しくて讓ると聞けば悲しかるらん。
- 何時までも明けぬ暮れぬと營まん身は限りあり事は盡きまじ。
- 何時迄も峯におきたや花の雲。
- 何時迄も嫁の心を失わず内端なるこそめでたかるらん。
- 何時迄も我が物とせん世の中は昨日に今日は變わる習いを。(無難禪師)
- 何時見ても親の眼よりは子供なり子供心になるが孝行。
- いつ見ても隙そうなのは臍の穴。
- いつも達者で往來めさる不老不死の活き達磨。
- いつよりか空しき空に散る花のあだなる色に迷いそめけん。
- 何時を夢何時を現(うつつ)の程ぞとも見定め難きあだし世の中。
- いづくとも心留めぬ浮き雲は如何なる山の上もかまわず。
- いづくより生まれ來るとも無きものを還るべき身を何嘆くらむ。
- 何處にも心とまらば住み替えよ長らえば又元の故里。(新古今・西行)
- 何處にも住まれずばただ住まであらむ柴の菴のしばしなる世に。
- いずくにも思いぞよらむ木のもとの下より立ちし花の白浪(慈鎭和尚)
- 何處まで尋ね行くとも呼び子鳥聲は幽かに聞こえざるらむ。
- 何處より何處へ行くと人問はば後より先へ足にまかせて。
- いずれをか我とは言わん世の中にのどかに君は思い入る哉。
- 出づるとも入るとも月は思わねば心にかかる山の端もなし。(夢窓國師)
- 出づる峯入る山の端の遠ければ草に宿かる武藏野の月。
- いつわらぬものと思いし鏡すら左と右に映る世の中。
- 僞りのあるをば知らで頼みけん我が心さえうらめしの身や。
- 僞りのなき世なりせば如何ばかり人の言の葉嬉しからまじ。(古今・讀み人知らず)
- 僞りも誠も共になかりけり迷いし程の心にぞつく。
- 一休も破れ衣で出るならば乞食坊主と一は云うらん。(一休禪師)
- 一錢も粗末にならずたねとせば黄金花咲く春に逢うらん。
- 一俵もとらで案山子の弓矢かな。
- 出でずとも眞の心あるならば胸の葉ならせ戀の松風。
- 絲のもつれをほどいた樣な晴れた心を月に見る。
- 井戸底の管見、自ら方圓をつけて追う蛙かな。
- 井戸の蛙と譏らばそしれ花も散り込む月もさす。(頼山陽)
- 井戸端のさくらあぶなし酒の醉。(秋色女)
- 厭うべきことわりまでは知る人の捨つるに難き世の習いかな。
- いといつる山路の奧よそれよりは身を忘るるや深き隱れ家。
- いとわるる身の置く程の山ぞなき人の訪わぬを隱れ家にして。
- いと淋し恨みも戀も晴れやらで心闇きに迷うなりけり。
- いとどしや哀れと住める露の身を落ちよと誘う萩の上風。
- 稻妻に悟らぬ人の尊さよ。
- 稻妻のかきまぜて行く闇夜かな。
- 稻妻の影に先立つ身を知れば今見る吾に逢う事もなし。
- 稻妻や昨日は東今日は西。
- 稻妻やまたたくひまに人一世。
- 古(いにしえ)に此處を博多と名付けしは博奕(ばくえき)多きためしなるべし。
- 古の白きを思い洗濯のかえすがえすもかえすがえすも。(二宮尊徳)
- 古の奈良の都の八重櫻今日九重に匂いぬるかな(伊勢大輔)
- 古の錦着る身の今日は早や牛賣る家の鍋の火を焚く。
- 古の人の心の高間山今しもよそに見てやまめやは。
- 古の人の踏みけん古道も荒れにけるかも行く人なしに。
- 古の道を聞きても唱えても我が行いにせずば甲斐なし。
- 古は鼠が化かして猫となる今は鼠が猫にとらるる。(二宮尊徳)
- 古も今も變わらぬ人心善し惡し共に名のみ殘りて。
- 犬が西向きゃ尾は東、雨の降る日は天氣が惡い。
- 犬の喧嘩に雷落ちて電光石火と散りてゆく。
- 犬の子にあやかる人の仕業こそ佛ともなり地獄へも入れ。(一休和尚)
- 命あらば又も逢う瀬のめぐり來て再びかわす君の手枕。
- 命投げ出す楠公父子萬代不朽の湊川。
- 命ほど仇なるものはよしあらじ唯朝顏の花のうわ露。
- 命惜しけりゃ何も出來ぬ命を的に奮起せよ。
- 祈る雨祈らぬ町へこぼれけり。
- 祈るともしるしなきこそ驗(しるし)なれ祈る心に誠なければ。(古歌)
- 今ありて今無き今を安らかに忍びつつ行く今ぞ嬉しき。
- 今か今かと寢られぬ耳に待たぬ一聲ホトトギス。
- 今頃は駒形あたりほととぎす。
- 今更につれなき世をば驚かで知りて厭わぬ身を嘆くかな。
- 今ぞ知る思いそめにし心より外に見るべき佛なしとは。
- 今ぞ見る五十路あまりの春を經て別れしままの故郷の空。
- 今と言う今でも今が別れなり今にも消ゆる露の命は。
- 今という今の今なる時は無し今の時くりゃ今の時去る。
- 今時の若衆の尻は將棋盤金銀なければ王と答えぬ。
- 今に見さんせ見事に添うて立った浮き名を反古にゃせぬ。
- 今の心が初めにあればそうした苦勞はすまいもの。
- 今の世は花に浮世の劍にて人の心を破る春風。
- 今は思いの雲霧晴れて富士の霞の帶を解く。
- 今は早や心にかかる雲もなし月の入るべき山しなければ。
- 今は早や心も安しあま小舟津々浦々の風にまかせて。
- 今までは花とも見えし紅葉ばの散りて跡なき秋風の聲。
- 今までは人の事だと思うたが俺が死ぬとはこいつたまらん。(蜀山人)
- 引導は無事なる時に受け給え末期の旅に赴かぬ中。(一休和尚)
- 芋を見よ子に榮えよと親やせてえぐうなったり甘うなったり。
- 賤しとて隔つる心あるならば賤が伏屋に月は宿らじ。
- いやじゃあろうがこち向かしゃんせそこは蒲團の敷きざかい。
- 入相の鐘とばかりに聞き捨てて身の夕暮れを知る人ぞなき。
- 入相の響きの中やほととぎす。
- 入れて落ち着く港の船も朝の嵐に苦勞する。
- 色色に姿形は變われども惜しむ命は皆同じ事。
- 色色の姿は雲や雪まかせ肝っ玉太き不二山をみよ。
- 色黒く顏の惡しきは生まれつき直せば直る心直せよ。
- 色好む心にかえて思えただ見るものは誰ぞ聞くものは誰ぞ。(無難禪師)
- 色で迷わすあの花さえも枯れて落つれば塵となる。
- 色と欲酒と遊びに傾かず家業大事にすれば極樂。
- 色に溺れ酒に亂れし其のもとは惡しき人をば友とせし故。
- 色に非ず聲にあらざる人は誰ぞ峯の松風谷川の水。
- 色の春風手管の絲で無闇の上がる奴凧。
- 色も香も散りにし後の梅が枝になおも來たりて鳴ける鶯。
- 岩に松さえ生えるじゃないか添うて添われぬ事はない。
- 祝い目出度の若松樣よ枝も榮りゃ葉も繁る。
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- 有と言えば有とや人の迷うらん
- 有と無と二本さしけり芥子の花。
- 浮いて居る蛙の面の憎らしさ。
- 上からも下からも讀む八十八中から讀みし事もありしか。
- 上見れば及ばぬ事の多かりき笠着て暮らせ己が心に。
- 植えてこそ黄金の花の盛りかな。
- 植えて見よ花の育たぬ里もなし心からこそ身は賤しけれ。
- 魚は瀬に住む鳥や木に宿る人は情けの下に住む。
- うかうかと暮らす樣でも瓢箪の胸の邊りに締め括りあり。
- うかうかと月日を過ごす修行者は井筒の上の茶碗とや見ん。
- うかと乘るなよ浮世の車舌に毒もつ蜂ばかり。
- 浮き草や今日は向こうの岸に咲く。
- 浮き草や流れては又咲きかわり。
- 浮き草は所定めぬものならば荒き風をも何か厭わん。
- 浮きつ沈みつ浮世の川の流れ渡りも樂じゃない。
- 憂世にはかかれとてこそ生まれけめ理り知らぬわが涙かな。
- 浮世離れて浮世を見やれ住むは住まぬの阿修羅道。
- 浮世をば何のへちまと思えどもぶらりとしては暮らされもせず。
- 憂き事の猶この上に積もれかし限りある身の力試さん。(熊澤蕃山)
- 憂き事の品こそ變われ世の中に思いなくして住む人ぞ無し。
- 有句無句は藤の木による事の葉の直ぐなる道に迷うなりけり。
- 鶯や釋迦より先の法の聲。
- 牛になる合點じゃ朝寢夕涼み。
- 牛の角動かす繩の力かな。
- 牛は牛づれ相手を嫌う馬鹿を見たのは側杖か。
- 牛は牛連れ馬は馬連れ。
- 牛も鳴き狐もないて別れかな。
- 後ろ姿を主とは見たが呼ぶに呼ばれぬ人の前。
- 碓井峠で今朝見た女男泣かせのなげ島田。
- 薄紅葉赤き心を問われては散らでなかなか恥ずかしき哉。
- 嘘がありゃこそ誠が分かるなぞと言うては嘘をつき。
- 嘘も誠も賣る身の勤めそこが買い手の上手下手。
- 嘘を誠に見せるが上手口と心は裏表。
- 歌うたえ歌で器量は下がりゃせぬ。
- 詩を詠み詩を作るより田を作れ何がしよりも金貸しがよい。
- うたた寢も叱り手の無き寒さかな。
- 打ち恨み浮世の外に出でぬれば辛きは人の情けなるらん。
- 打ち捨てて身は無き者と思えども雪降る夜は寒うこそあれ(よ行參照)
- 打ち連れて二人三人乙女子が手鞠つきつつ遊ぶ樂しさ。
- 打ちなびく柳は緑に吹く風に乙女の裾の紅も亂るる。
- 宇治は茶所よい茶の出どこ娘やりたや茶を摘みに。
- うちよりぞ暗きは窓の簾なり主も見えずに玉の床かな。
- 美しき姿形は要らぬもの人迷わせて罪つくるなり。
- 美しき花の姿も野ざらしの骨となるのは今夢の中。
- 移りゆく浮世の中の影法師自己の鏡はそのままにして。
- 移りゆく影止めずば流れ川心の水のいかで濁らむ。
- 移りゆく初め終わりや白雲のあやしきものは心なりけり。
- 寫るとは月は思わじ寫すとも水も思わじ猿澤の池。
- 寫るとも月も思わじ寫すとも水も思わじ猿澤の池
- 打つ人も打たるる人もかわらけの碎けて後は元の土塊。
- 打つ人も打たるる人もかわらけよ碎けて後は元の土塊。
- 打つ者も打たるる者もおしなべて如露亦如電應作如是觀。(夢窓國師)
- うつむくは其のおきてなり百合の花。(千代女)
- 打てばなる打たねばならぬ此の棒で頬面一つ春風ぞ吹く。
- うまいもの喰うて油斷はならぬ油斷に敵は舌を拔く。
- 生まるるも生まれぬ身ぞと思い知れ死すると云うも僞りぞかし。
- 生まれ子の次第次第に智惠つきて佛に遠くなるぞ悲しき。
- 生まれては皆おしなべて死ぬるなり釋迦も達磨も猫も杓子も。(一休和尚)
- 生まれぬる此の曉に死にぬれば今日の夕べは秋風ぞ吹く。
- 馬の糞もとをただせば野山のすすきキリギリス鳴かせた事もある。
- 有無共に云うべき事はいと絶えて調べは高し峯の松風。
- 海青し雪の山山鳥かえる。
- 梅が枝に降り重なれる白雪を八重咲く花と思いけるかな。
- 梅が香を櫻の花に匂わせて柳の枝に咲かせてしがな。
- 梅が香や乞食の家も覗かるる。(基角)
- 梅が香にのつと日の出る山路哉。(芭蕉)
- 梅が香やつうと日の出る山路哉。(芭蕉)
- 梅と櫻を兩手に持ってどちらが實やら誠やら。
- 梅に鶯竹には雀私しや何故松ばかり。
- 梅の香りを櫻に持たせ枝埀れ柳に咲かせたい。
- 梅の木は根も梅なれば種も梅枝も葉も梅花も實も梅。(二宮尊徳)
- 梅の小枝に鶯とめて今に鳴き出す時を待つ。
- 梅は飛び櫻は枯るる世の中に何とて松はつれなかるらむ。(菅原傳授)
- 梅干しのような婆樣(さ)も花咲きし昔は色も香もあったげな。
- 梅も櫻も牡丹も要らぬ早く返事を菊の花。
- 梅や櫻とそれからそれに契りは盡きぬ華の山。
- 埋め火の絶えたるをつぐ炭はあれどおこしがたきは廢れたる道。
- 浦まではたちも昇らで有明の月に及ばぬ峯の白雲。
- うらめしや我が隱れ家は雪隱か來る人毎に紙置いてゆく。(良寛和尚)
- 裏を見せ表を見せて散る紅葉。(良寛和尚)
- 賣り買いの二つの惠みなかりせば何處のはてに咲くやこの花。(二宮尊徳)
- 嬉しく會わるる事あるからは辛い別れも有る筈だ。
- 嬉しさを昔は袖に包みけり今宵は身にも余りぬるかな。
- 有漏路より無漏路へ歸る一休み雨降らば降れ風吹かば吹け。(一休和尚)
- 家(うち)の裏の小(ち)さな木に雀が三羽とうまった。
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- え ↑ ↓ △
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- 繪に寫し木にも造りし佛達皆我が胸におわしまします。
- 繪にかきし餠は食われず世の中は眞でなければ間に合わぬぞ。
- 餠を運ぶ親の羽音には目をあかぬ子も口をあくなり。(二宮尊徳)
- 江を隔て横に走るもさる事やそれこれなしに直ぐにうなづけ。
- 榮華とは榮える花と書くなれば咲いて亂れて後は散るなり。
- 囘向するとて佛の前へ二人向いて小鍋だて。
- 枝を折る人に香るや梅の花。
- 得手勝手渡世いとなむ片手間に慈悲と念佛かねて忘るな。
- 江戸で紫京都で淺黄伊勢松絞りの色のよさ。
- 江戸は紺京は烏紺で有馬絞りの程のよさ。
- 遠州濱松廣い樣で狹い横に車が二丁たたぬ。
- 炎天の火をふきそうな鬼瓦。
- 縁は切れても思いは殘る草は燒けても根は殘る。
- 衿の楊子がもの言うならば掘って聞きたい主の胸。
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- お ↑ ↓ △
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- お醫者樣でも草津の湯でも戀の病はなおりゃせぬ。(草津節)
- お江戸では一か二かは知らねども博多じゃひんとはねた海老藏。
- おさらばじゃ無事に遊べよ秋の旅。
- お世辭言うのも好きではないがお世辭言わなきゃ身が立たぬ。
- お身が立たなきゃこれこちお出で達磨宗には世辭いらぬ。(對句)
- お月樣幾つ十三七つ。
- お月樣さえ泥田の水に落ちて行く世の浮き沈み。(頼山陽)
- お手がなったらお茶持っておいで又もなったら煙草盆。
- お手がなったら銚子と悟れ又もなったら煙草盆。
- お婆何處へいきやる三升樽さげて生まれ故郷の種まきに。
- お婆何處へ行く三升樽さげて嫁の在所へ孫だきに。(岐阜俗謠)
- 御久し振りだと火鉢にもたれ座って互いに笑い顏。
- お一つとりましょひいふう三四五六七八九一丁。
- お富士さん霞の衣ぬがしゃんせ雪の肌(はだえ)が見とう御座んす。(白隱和尚)
- お前に見せよと結いたる髮を夜中に亂すも亦お前。
- お前の心で此の剃刀が咽喉へ行くやら眉毛やら。
- お前の宗旨はお猫だそうな蒲鉾喰ってニャンマミダ佛。
- お前百までわしゃ九十九まで共に白髮の生えるまで。
- お目が醒めたらこち向かしゃんせ味な話があるわいな。
- 尾も長し頭も長し尾長鳥。
- 老いたるも若きも同じ朝顏の露よりもろき我が身なりけり。
- 老いておれどもわしさえ行けば釋迦も達磨も命がけ。
- 老いぬれば伴を八人設けたり皺が四人(よったり)年が四人。
- 老いの坂曳きつ引かれつ孫の手を。
- 老いの身の營むべきは慈悲善根香華功徳坐禪念佛。
- 追い出した昨日の鬼が早變わり年始の席でちゃんと正客。(拾遺・藤原朝忠)
- 逢う事の絶えてしなくばなかなかに人をも身をも怨みざらまし。
- 逢うて言う事一重も八重もあれど心の内ばかり。
- 逢うて嬉しや別れの辛さ逢えば別れもせにゃならぬ。
- 逢う時は語り盡くさんと思えども別れとなれば殘る言の葉
- 逢う時は別れ路も有り同じくは身に添う影となる友もがな。
- 近江路や石山寺の眺めこそ風と月とのうちにありけれ。
- 大いなるものの力に引かれ行く我が足跡のおぼつかなしや。(九條武子)
- 大君を思う心の一筋に我が身ありとは思わざりけり。
- 大空の空しと見れば陽炎(かげろう)の有るにも非ず無きにしもなし。
- 大空は何時しか晴れて塵の世に心のままに照らす月影。
- 大原女の頂く薪匂いしは梅の一枝添うるなりけり。
- 大旱(ひで)り爭う水も無かりかりけり。
- 大晦日定め無き世の定めかな。
- 大晦日正月元旦の隣なり。
- 大水の前に流るる橡(とち)殼も身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
- 大雪の梅に消え込む靜けさよ。
- 大雪や婆獨り住む藪(やぶ)の家。
- 起きて見る寢て見る蚊帳の廣さかな。(浮橋)
- 起きて見つ寢て見つ蚊帳の廣さかな。(浮橋)
- 沖のかもめに潮時問えばわたしゃ立つ鳥波に問え。
- 沖の暗いのに白帆が見えるあれは紀の國蜜柑船。
- 奧山に枝折るは誰が爲なるぞ我が身を負うて捨てる子のため。(姨捨山)
- 奧山に紅葉踏み分け啼く鹿の聲聞く時ぞ秋は悲しき。(古今・讀み人不知)
- 奧山の杉の群立ち共ずれて己が身よりぞ火を出しける。(榮西禪師)
- 小倉山峯の紅葉葉心あらば今一度の御幸待たなむ。(拾遺・藤原時平)
- 桶屋商賣私は好きよ離ればなれを丸くする。
- 怠らず行けば千里の外も見ん牛の歩みのよし遲くとも。
- 怠りの積もり積もりて老いにけり我に似るなと子をや諫めむ。
- 怠りも夏の稼ぎも程々に穗にあらわれて見ゆる秋の田。
- 奢りぬる人の榮華はあだ花の早くも散りて實も無かりけり。
- 驕るなよ月の丸いのも只一夜。
- 怒るなよ月の丸さも只一夜。
- おしなべて雲の走るも怪しきに何をふまえて霞立つらむ。
- おしなべて春を眺むるその中に花見る人は獨りなりけり。
- おしなべて舟の走るも怪しきに何をふまえて波の立つらん。
- 教えぬに吾からそれと心得て戀こそ人の習うものかな。
- 忍路(おしよろ)高島及ぶも無いがせめてうたすつ(歌棄)磯谷まで。
- 惜しからぬ硯に入れし筆の軸切りたくも有り切りたくも無し。
- 惜しと思う我が身一つを捨てぬれば此の世ほどなる樂しみはなし。
- 惜しみても惜しみ甲斐無き憂き身をば捨て果ててこそ浮かぶ瀬もあれ。
- 惜しみても歸らぬものは月と日と水の流れと人の命と。
- 惜しむとも甲斐や嵐の山の端の花より先に落つる白露。
- 惜しや欲しやの心が無けりゃ今は世界が吾がものじゃ。
- 押せぬものなら手を出さぬがはるかましだよ水の月。
- 押せば木が行く押さねば行かぬ押して木をやる筏舟。
- 恐るべし槍先よりも舌の先果ては我が身を突きくずすなり。
- 恐るべし欲の焔の烈しくて我が身も家も人も燒くなり。
- 恐れしゃんすな雷樣もたまにゃ癇癪目の藥。
- 恐ろしい油斷の敵何處で出た九十九段の後の一段。
- 恐ろしき鬼の住處を尋ぬれば邪見な人の胸に住むなり。
- 恐ろしき氷の角は元は水。
- 恐ろしき地獄の底の鬼とても己が吹き出すものと知らずや。
- 恐ろしき角の生えたる鬼よりも己が數珠くる姿おそろし。
- 落ち始むる此の一葉こそ悲しけれ我が身に秋の來ると思えば。
- 落ちて散りゆく木の葉を見ても何故か此の頃氣にかかる。
- 落ちて皆心や春の鹿。
- 落ちる時節も今日とは知らず無理に落とした雨の花。
- 落ちるなら地獄の釜もつん拔いて阿房羅刹に損をかけたい。
- 零落(おちぶ)れて袖に泪のかかる時人の心の奧ぞ知らるる。
- 折って見たいは誰しもなれど矢張り眺めの遠櫻。
- 音がするなら大工を頼め押せば開くよにひらくよに。
- 音に聞く安達が原に來て見れば此の世に鬼はあらじとぞ思う。
- 音もなく香もなき人の心にて呼べば答うる主と奴さん。
- 男が好くよな男でなけりゃ粹な女は惚れやせぬ。
- 乙女子が春の野に出でて若菜摘む谷の嵐にもすそ亂るる。
- 音も無く香も無く常に天地(あめつち)は書かざる經を繰り返しつつ。(二宮尊徳)
- 驚かす鐘の聲さえ聞き慣れて長き眠りの醒むる夜もなし。
- 同じ流れにさて住みながら鷺は眠るし鵜(う)はあさる。
- 鬼になるのはいと安けれど佛らしきは面ばかり。
- 鬼佛をも越ゆればもとの傀儡師。
- 鬼よりも猶恐ろしき世の中に色と酒とを恐れざる人。
- 己が子を惠む心を法とせば學ばずとても道に至らん。(二宮尊徳)
- 己が分別さっぱり止めて彌陀の思案にまかしゃんせ。
- 己が身に化かさるるとは知らずして狐狸を恐れぬるかな。
- 己が身の白きを月に寢忘れて朝宿りする野田の白鷺。
- 己が身のほどほどを知れ草の露重きは落つる人の世の中。
- 己が身を修むる道は學ばざらん賊がなりわい暇(いとま)なしとて。
- 己が目の力で見ると思うなよ月の光で月を見るなり。
- 己が善きに人の惡しきがあらばこそ人の惡しきは我が惡しきなり。
- 己から作りし智惠は智惠でなしまことの智惠は吾が知らぬ智惠。
- 己れ其の儘生かしておかぬ岩も貫く一念で。
- 己れ見ておけ七日の内に祈り殺さにゃとり殺す。
- おのずから横しまに降る雨はあらじ風こそ夜の窓を打つらめ。
- 姨捨て山の峯より見渡せば田毎に月はうつりけるかも。
- 帶は解かねど解いたる胸を察してお呉れと目で知らす。
- 朧(おぼろ)夜に、姿はそれとまぼろしの、俄に主の俤(おもかげ)と、見る甲斐もなき雲の色、晴れて逢う夜をまつばかり。
- 女郎花(おみなえし)男山にも麓(ふもと)にも身を分けてこそ咲ける眞心。
- 女おば法の御藏と云うぞげに釋迦も達磨もひょいひよいと生む。
- 女の一念岩をも通す金の鎖も切りや切れる。
- おんニコニコ腹立てまいぞや娑婆訶
- 面影の變わらで年の積もれかし共に白髮の生えるまで。
- 面影の變わらば變われ年も寄れ無病息災死なば
- 面白や散る紅葉葉も咲く花も自ずからなる法のみすがた。
- 面白く話せる人と見るからはめったに心許さぬがよい。
- 面白てやがて悲しき鵜飼い船。(芭蕉)
- 思い入る心の中に道しあらばよしや吉野の山ならずとも。
- 思い切ったる高音を出してそっと鶯花のかげ。
- 思いきや思わず耳に入相の鐘聞く方にかえるべしとは。
- 思い切り込む八色田地あいと返事の主はどこ。
- 思いしにたがえて事の嬉しきは取り替えられし車なりけり。
- 思い知れ人の心の裏表いつわり誠夢の世の中。
- 思い過ごせば顏にも出るよ包みかくすはお身の毒。
- 思い出しては涙をこぼし語り出しては袖しぼる。
- 思い出す程忘るる隙がなくてしばしも苦が絶えぬ。
- 思いだし樣じゃ惚れよが薄い思い出さずに忘れずに。
- 思い立つ衣の色は薄くともかえまじものよ墨染めの袖。
- 思いつつ人の見つらん仇枕夢と知りせばさめまじものを。
- 思いますまいもう諦めて死ぬる覺悟は決めてある。
- 思いまわせば浮世は鏡笑い顏すりゃ笑い顏。
- 思いやる心や花に行き去らむ霧に見たるみ吉野の山。
- 思いやれ使うも人の思い子よ我が子に思え思いくらべて。
- 思いわびさても命はあるものを憂きに堪えぬは涙なりけり。(道因法師)
- 思うこと流れて通る清水かな。
- 思うこと一つ叶えば又二つ三つ四つ五つ六つかしの世や。
- 思うこと二つ除けたる其の後は花の都も田舍なりけり。
- 思う念力岩でも透すつとめて登れ富士の山。
- 思う念力岩でも通す金の鎖も切りや切れる。
- 思う人ただ主もなき大空の眺めに曳かるる海山もなし。
- 思うまいとは思うて居れど愚癡が導く花の蝶。
- 思えただ滿つればやがて欠くる月希望の中や人の世の中。
- 思わせ振りかよあの時鳥姿見せずに聲ばかり。
- 思わねば思わぬものもなかりけり思えば思うものとなりぬる。(至道無難和尚)
- 念(おも)うにし死(しに)するものにあらませば先遍(ちたび)ぞ吾は死にかえらまし。(萬葉集)
- 表で化粧に迷うた果ては内に輪廻の火の車。
- 親の意見と茄子の花は千に一つも無駄がない。
- 親の日や流石に休む鵜飼い船。
- 親は子に依る子は親だより心と心の花と咲け。
- 親もなく友無く子もなし妻もなしいっそ死んだがましじゃろか。
- 親もなし妻も子もなし家もなしいっそ死んだがましかいな。
- 親もなし妻なし子なし版木なし金もなければ死にたくもなし。(林子平)
- 親を思う心に勝る親心今日の訪れ何ときくらむ。(吉田松陰)
- 小山田の里の畑も年々に立ちそう世こそ樂しけれ。
- 及ばぬことと聞きあきらめて見ぬがましかよ池の月。
- おらが世やそこらの草も餠になる。
- 折らんとて制札のある櫻かな。
- 折り得ても心許すな山櫻さそう嵐の吹きもこそすれ。
- 折りくぶる柴は樣々に見ゆれども煙は同じ色にもあるかな。
- 折り折りに遊ぶいとまはある人の暇なしとて文よまぬかな。(本居宣長)
- 折れちがう葦の枯れ葉を頼りにて水の上にも積もる白雪。
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- か ↑ ↓ △
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- 蚊一つに施しかねる我が身かな。
- 可愛子よ使うも人の可愛子よ吾が可愛子に思いくらべて。
- 可愛や可愛や饅頭見ても花見ても。
- 書いたる郵便袖から袖へ人に見られて恥ずかしや。
- 骸骨に着物を着せて連れて來て女房なんどと云うぞおかしき。(一休和尚)
- 骸骨の上を裝うて花見かな。(鬼貫)
- 傀儡師首にかけたる人形箱佛出そうと鬼を出そうと。(一休和尚)
- 歸り來て寢ての後さえ花見つつやられて舟にある心地かな。(大隅言道)
- 歸りには何も流して風涼し。
- かかる時さこそ命の惜しからめかねて無き身と思い知らずば。(太田道灌)
- 垣せねば皆我が物や雪の山。
- 限りあれば吹かねど花は散るものを心短き春の山嵐。
- かくせ唯(ただ)路をば松の落ち葉にて我が住家とは人の知らすな。
- かくていま漕ぎ離したる海女小舟さして着くべき浦も待たねば。
- かくしても住めばすみれの花にさえ浮世はなるる逢生の宿。
- 掛けじとも自らなる珠なるを友にぞ逢うて問うも恥し。
- 影は數數田毎にあれど眞に映した月はない。
- 影もなく宿るを見ればさやかにて月に契りを結ぶ白露。
- かげ分けて千千に碎くる溪川の月の光は圓かなりけり。
- かげろうと共にちらりと小鮎哉。
- 陽炎の夕を待たで消ゆるより猶果敢なきは人の身の上。
- 過去や未來も只今ばかり議論するよりただ歌え。
- 籠かきも乘り手も同じ旅なれば一足づつに先に近づく。
- 笠は無し其の儘ぬれて行く程に旅の衣に雨をこそ着る。
- 畏くも御紋に似たる菊の花さかり久しき九重の庭。
- 樫の木の花にかまわぬ姿かな。(芭蕉)
- 霞たつ若草燃ゆる春の野に眠りつ起きつ遊ぶ牛かな。
- 糟を喰うて寢言を吐くな小智葛藤禁門じゃ。
- かずかずの、憂き目を凌ぎ都路へ、上がって聞けば其の人は、東の旅と聞く悲しさ、又も都を迷い出で、いつかは巡り逢坂の、關路を後に近江路や、美濃尾張さえ定めなく、戀し戀しに目を泣きつぶし、物のあいろもみづ鳥の、陸にさ迷う悲しさは、何時の世如何なる報いにて、重ね重ねの歎きの數、あわれみ給えとばかりにて、聲を忍びて歎きける。(朝顏日記)
- 風が髮すきゃ木(こ)の絲柳誰に思いを夕月樣よ。
- 風が三味ひく木の葉が踊る東雲烏が謳い出す。
- 風の姿を白帆に包み月の世界や水かがみ。
- 風の便りも蕾の中よ咲けば苦になる花の枝。
- 風の模樣で分かれていても末は結ばる絲柳。
- 風は息虚空は心日は眼海山かけて我が身なりけり。
- 風吹けば沖津白浪立田山夜半には君が一人越ゆらむ。(古今・讀人不知)
- 堅い蕾と思うて居たに何時か春風綻びる。
- 堅き約束石山寺の石の證文石の判。
- 堅く見せても油斷はならぬ融けて流るる雪達磨。
- 火宅には又もや出でむ小車に乘り得てみれば我れあらばこそ。
- 蝸牛角振り分けよ須磨明石。
- 片時もあだにはなさじさりとては逢い難き世に暮れ易き日を。
- 形見こそ今は仇なれこれなくば忘るる時もあらましものを。(古今・讀人不知)
- 形見とて何か殘さむ春は花夏ほととぎす秋は紅葉ば。(良寛和尚)
- 合點じゃ其の曉のほととぎす。
- 角(かど)あれば物の障りてむづかしや心よ心ころころとせよ。
- 門松は冥途の旅の一里塚目出度くもあり目出度くもなし。(一休和尚)
- 家内中調子揃いて大笑い是れ天然の音樂の聲。
- 家内中眺めのよいが寳船心安す安す世を渡るなり。
- 鐘がなるかや撞木がなるか鐘と撞木の合いがなる。
- 鐘がなるかや撞木がなるか鐘がなければ音がせぬ。
- 鐘も鳴らない撞木も鳴らぬ鐘と撞木の合いがなる。
- 鐘も鳴ります撞木も鳴るよ鐘と撞木で音がする。
- 鐘は上野か淺草か。
- かねて我が思いしよりも吉野山なおまさる花の白雲。
- 金があるとて高ぶり召すな金は身を切る劍(やいば)なり。
- 金もいらなきゃ名譽もいらぬたった一つの眼が欲しい。
- 金持ちと朝晩捨つる灰ふきはたまる程なおきたないと知れ。
- 金をのみ欲しがる人ぞおかしけれ黄金は飯に代わりやはする。
- 壁に耳ある又其の上に障子に目を持つ障子張り。
- 壁に耳石に物言う世の中に人知らずとて惡しき事すな。
- 鎌倉は今まのあたり麥畑。
- 神といい佛というも世の中の人の心のほかのものかわ。
- 神も見よ佛も照らせ我が心後の世ならで願う日もなし。
- 神代とはふりし昔の事ならず今も神代と知る人ぞ神。
- 神代より變わらぬものは水の流れと戀の道。
- 髮を結う時に女の眼はすわり。
- 堪忍と聞けば安きに似たれ共己に克つの替わり名なるべし。
- 堪忍のなる堪忍は誰もするならぬ堪忍するが堪忍。
- 堪忍の見事に見ゆる雪の竹(芭蕉)
- 堪忍は我が身の爲と思うべし人に堪忍すると思うな。
- 寒月や我が獨りゆく橋の音(太祇)
- 寒山箒を捨てて雪峯に入る喫茶煙中禪味わく。
- 寒熱の地獄に通う茶柄杓も心なければ苦しみもなし。
- 寒熱の地獄に通う茶柄杓の心なければ苦しみもなし。
- 考えて無理な幸福願うなよ過去にて蒔かぬ種は生えぬぞ。
- 閑古鳥そちも淋しいか飛んで行く。
- 癇癪を起こした後の始末かな。
- 勘平さん三十になるかまらずに死にやった。
- 元日やお祭り後の藁人形。
- 元日や家内ながらも客言葉。
- 元日や太郎おさんの宮參り。
- 元日や又うかうかの初め哉
- 元日や楊貴妃樣の厠入り。
- 蚊帳を出て又障子あり夏の月。(丈草)
- 蚊帳の環一つはずして月見かな。
- 通う千鳥の心も知らで主はじらして淡路島。
- 空池に水溜まりけり夏の雨。
- 傘のさしたる罪はなけれ共人に張られて雨に打たるる。
- 唐崎の松は二つに見えにけり寄せ來る波に影を映して。
- 烏ないても知れそなものよあけくれお前の事ばかり。
- 鴈鳴きて菊の花咲く秋はあれど春の海邊に住吉の濱。(伊勢物語)
- 假初の雲がくれとは思えども見えねば惜しき有明の月。
- 假初の言の葉草に風たちて露のこの身のおき所なし。
- 假に來て親にあだなる世を知れと教えて歸る子は佛なり。
- 假の世を假の世だとて仇にすな假の世ばかりが己が世なれば。
- 假の世に貸したる主も借り主も貸すとは思わず借るとは思わず。(一休和尚)
- 假の世に又旅寢して草枕夢の世に又夢を見る哉。
- 假の身を元のあるじに貸し渡し民安かれと願う此の身ぞ。(二宮尊徳)
- 刈り後の鳥の聲せぬ小山田の倒れしままの案山子なりけり。
- 借る時の面を寫眞にとりておき拂わぬ時に見せてやりたや。
- 枯れ枝に鳥のとまりけり秋の暮れ。(芭蕉)
- 枯れ果てて然も花咲く枝に聲も立てずに鶯の鳴く。
- 枯れ果てて月も宿らぬ柳哉。
- 枯れ果てて身はなきものと思えども雪の降る夜は寒うこそあれ。(大燈國師)
- 彼れと我れと隔てをするな雪の達磨も元は水。
- 皮にこそ男女の色はあれ骨には變わる人もなし。(一休和尚)
- 皮をむいたらお前と私どれがどれやらわかりゃせぬ。
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- き ↑ ↓ △
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- 木には枝あり竹には節よ主と私にゃ附けがある。
- 木の實をば猿に食わせて猿に又此の身喰わせて貰う猿引。
- 氣に入らぬ風もあろうに柳かな。(青峨)
- 氣のつまる婆婆に長長居たくない地獄の底へ所替えせん。
- 氣もつかず目にも見えねどいつの間にほこりの溜まる袂なりけり。
- 氣をつけていながらすべる雪の道。
- 來て見ても來て見ても又同じこと此處らで一寸死んで見ようか。
- 來て見れば此處も火宅の中なるに何住吉と人はいうらん。
- 來て見れば此處も火宅の中なれど只何となく住めば住吉。
- 來て見れば左樣でもなし富士の山。
- 來て見れば森には森の暑さかな。
- 聞いて下んせ啼いたが無理か誠あかせし明け烏。
- 消え果つる草の蔭まで悲しきは結びもとれぬあだし野の露。
- 消え果てん煙の色を眺むれば猶あともなき夕暮れの空。
- 消えて行く雪霜さえも路を見よ罪重なれば惡水となる。
- きかさせや信太の森の古寺の小夜ふけ方の雪のひびきを。(白隱禪師)
- 聞きしより見て美しき地獄かな生くるお人の落ちざらめやは。(一休和尚)
- 聞く度に珍しければ時鳥いつも初音の心地こそすれ。(僧永縁)
- 聞く時は誠と思う法の道その場をたてばはや忘れけり。
- 聞くは耳見るは眼のものなれば心は何の主なるらむ。
- 聞く人も嵐の山の呼び子鳥答うる者は山彦の聲。
- 聞くままに又心なき身にしあれば己なりけり婆の舌頭。
- 聞くままに又心なき身にしあれば己なりけり谷川の水。
- 聞くままに又心なき身にしあれば己なりけり軒の玉水(道元禪師)
- 汽車で通えば千里も一里一目萬貫月一輪。
- 汽車の窓案山子も人も走りけり。
- 鬼神瞋れば天地も動き人は平和の羅針盤。
- 煙管さえ心のやにを掃除せず鴈首ばかり磨く世の中。
- 北は黄に東は白く南青西くれないの染色の山。
- 狂人婆といわれし私もやがて淨土の花嫁御。
- 狐等が迷い悟りの言の葉にたぶらかされる江湖の雲水。
- 昨日今日明日と浮世の丸木橋よく踏みしめて渡れ旅人。(二宮尊徳)
- 昨日何處へ寢た今宵は此處に明日は田の中畦枕。
- 昨日二上がり明日三上がり、調子揃わぬ絲の筋、此處で叩かれ彼所でけられ、辛い浮き世を渡りはすれど、主の心に實さえあれば、どんな苦勞もいとやせぬ。
- 昨日の發句は今日の辭世今日の發句は明日の辭世。(芭蕉)
- 昨日まで凍りて見えし山川の今日吹く風に瀧の音する。
- 昨日まで錦の褥玉の床明日は鳥邊の煙とぞなる。
- 昨日まで乘って遊びし竹馬の早くも老いの杖となるかな。
- 昨日まで莫妄想を入れ置きしヘチマ袋は今破れけり。
- 昨日見し人はと問えば今日はなし明日は我が身を人に問わるる。
- 昨日見し人はと問えば今日はなし明日また我も人に問われん。(日蓮上人)
- 昨日見し人はと問えば草むらに露と答えて秋風ぞ吹く。
- 昨日より知らぬ明日のなつかしや元の父母ましませばこそ。(二宮尊徳)
- 昨日よりもあすよりも今(日)の櫻哉。
- 君と別れて又いつ逢える明けて三月茶摘み頃。
- 君と別れて松原ゆけば松の露やら涙やら。
- 君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る。(古今・紀友則)
- 君の心を鏡となして私が心をうつしたい。
- 君を思えば照る日も曇る晴れた月夜も闇となる。
- 君待つと我が戀い居れば我が宿のすだれ動かし秋の風吹く。(萬葉・額田王)
- 金銀は慈悲と情けと義理と恥身の一代に使う爲なり。(一休和尚)
- 金銀は世の寳なり貯えて人の爲にもなすぞ尊き。
- 金の玉きずも曇りもなかりけり。
- 淨き流れに心を澄ましいつも極樂常月夜。
- 清くとも一夜に落ちよ瀧の水濁りて後の澄まぬものかな。
- 今日明日と數うる指も折りつきて握り拳の年の暮れかな。
- 今日ありと思うて日々に油斷すな明日をも知れぬ露の命を。(慈鎭和尚)
- 今日の日も暮るる許りと鐘聞きて身の入相を知る人もなし。
- 今日のみと思うて親に仕うべし明日は我が身も定めなき世に。(圓光大師)
- 今日ほめて明日あしく言う人の泣くも笑うも嘘の世の中。(一休和尚)
- 今日見ずばいつか見るべき櫻花。
- 今日よりは霞の衣脱ぎ更えて心と共に晴るる海山。
- 今日も今日も見えけり富士の山。
- 御意ならば石の袋も縫いもせよ砂(いさご)の原をばたまわるぞかし。
- 境遇に追われて未來忘るるな草葉の露のもろき命ぞ。
- 行水の捨てどころなき(し)蟲の聲。(鬼貫)
- 京都三條絲屋の娘、姉は二十一妹は二十、諸國大名は弓矢で殺す、絲屋の娘は眼で殺す。(頼山陽)
- 京の三十三間堂の佛の數は三萬三千三十三體。
- 桐の葉やさらさらさらと秋の風。
- 器量自慢もうっかり出來ぬ戀と無常は裏表。
- 器量や色には負けますけれど心づくなら負けはせぬ。
- 切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれただ切り結べばさきは極樂。
- 切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ飛び込み行けば其處が極樂。
- 義理をたつれば情がたたぬ道は二筋身は一つ。
- 切れた切れたと世間の噂水に浮き草根は切れぬ。
- 切れた柳も不思議な縁でまたもお前の妻楊子。
- 切れた男と躓く石は憎いながらも振り返る。
- 切れるつらさについ長文句紙のあるだけ書いて遣り。
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- く ↑ ↓ △
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- 苦にやむな金は世上に撒いてある欲しくばやろう働いて取れ。
- 九尺二間の長屋に居てもさされまおぞや後ろ指。
- 九年まで坐禪せしこそおかしけれ悟りて見れば一物もなし。
- 草刈りて足で踏み込むこやしかな。
- 草枯れて牛と仰向く時雨かな。
- 草木すら佛となると聞くからは心ある身のたのもしき哉。
- 草の菴何咎むらむ茅萱(ちがや)ばし惜しむにあらず花をも枝も。(良寛和尚)
- 草花の實のあるまでの手柄かな。
- 草枕夜毎に變わるやどりにも結ぶは同じ古里の夢。(良寛和尚)
- 草むらに酒があるかやチンチンロリン徳利と聞けば鈴蟲の聲。
- 草も木も生老病死の四つの苦を受くる春夏秋冬の色。
- 草も木も皆大君の國なれば何處か鬼の住家ならまし。
- 草も木もめでたそうなり今朝の春。
- 口あいて膓(はらわた)見するあけびかな。
- 口というこわい主人がある故に朝から晩までさても忙しい。
- 口はなけれど深山の草木花を咲かせて人を呼ぶ。
- 口故に父は長良の人柱きじも鳴かずば撃たれはすまじ。
- 口を開けば佛祖にそむく石の地藏さんは正一位。
- 口を開けば佛祖にそむく悟らぬ前に火花散る。
- 國何處里はいかにと人問はば本來無爲の者と答えよ。
- 國定忠治鬼よりこわいにっこり笑って人を斬る。
- 雲さけて月を吐き出す時鳥。
- 雲しきて峯をかくすや夏の雨。
- 雲にただ今宵の月のまかせてむ厭うとしても晴れぬもの故。
- 雲の帶霞の衣ほころびて雪のはだえぞ現れにけり。
- 雲の油斷を手早くとって松に誠をあかす月。
- 雲はあれど見よう一つや二十日月。
- 雲晴れて後の光と思うなよもとより空に有明の月。(法然上人)
- 雲晴れて峯にかがやく秋の月。
- 雲もなく月も桂も木もかれて拂い果てたるうわの空かな。(正徹書記)
- 雲晴れて上なる空に出でぬれば雨の降る夜も月をこそ見れ。
- 雲晴れて高き所へ出でて見よしばし月に隔てやはある。(夢窓國師)
- 雲を帶雨を衣に着る時は晴るる空には裸體にぞなる。
- 雲を蹴って月を吐き出す杜鵑。
- 曇りきて峯をかくすや夏の雨。
- 曇りなき身には一天四海までも晴れたるむねの中。
- 曇りなき身にむら雲のかかるとも後から晴らす風はたのしみ。
- 悔やむとも因果の報い如何せん未來のみやげ是非と善根。
- 悔やむとも高木は親の恩なるぞ言葉にしても常に敬え。
- 藏賣って日當たりのよき牡丹かな。(一茶)
- 暗がりで影法師奴(め)を見失い火をともしてぞ見つけたりける。
- 暗きよりくらき道にぞいりぬべき遙かに照らせ山の端の月。(拾遺・和泉式部)
- 暗闇によく見て居るを知らずして寳とられに入る盜人。
- くらぶれば長し短しむつかしや我慢の鼻のおき所なし。
- 狂うても靜かなものよ花の蝶。
- 苦しい思いも出世の道よ石に花咲く草もある。
- 苦しみの海を渡れば墨染めの袖にもかかる沖津白浪。
- 苦しみも樂をも知らぬ其の時は善惡共に及ばざりけり。
- 來るか來るかと待つ夜はいづこ待たぬ夜に來て門に立つ。
- 來るとみて歸るに似たり沖津浪。(貞心尼)
- 來るに似て歸るに似たり沖つ波立ち居は風の吹くに任せて。(良寛和尚)
- くるりっと家をとりまく貧乏神七福神は外へ出られず。
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- 藝者商賣佛の位花や線香で日を送る。
- 藝能やよろずの口を叩くとも我が主知れる人はまれなり。
- 袈裟衣ありがたそうに見ゆれ共これは俗家の他力本願。
- 化粧したのでフト見違える雪のあしたの梅の花。
- 化粧したのでフト見違える雪のあしたのながめ梅。
- 下女ひとりよなべして聞く時鳥。
- 結構な人と言わるる人ならばいつも大事の間には合わぬぞ。
- けぶくとも後は寢やすき蚊遣りかな」。
- 煙にもこりずに又も蚊の來ては顏さしにぞく夏の夜の月。
- 乾坤を其のまま庭に見る時は我は天地の外にこそすむ(宮本武藏)
- 乾坤を腹におさめて田植えかな。
- 乾坤も腹もおさめて田植えかな。
- 源五兵衞のお婆團子串にさいて夕べ九つ今朝七つ。
- けろり閑として柳に鴉かな。
- けろり閑として鴉と柳哉。(一茶)
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- 五大洲十六菊の香りかな。
- 五百世以前の住持が狐なら今の和尚もやはりコンコン。
- 子を思う親ほど親を思いなば世にありがたき子とや云われむ。
- 子を持ちし今の心に較ぶれば昔は親を思わざりけり。
- 此の面を祖師の面と見るならば墨繪の猫も鼠とるべし。
- 此の面を祖師の面と見るならば鼠をとらぬ猫と知るべし。
- 此の秋は水か風かは知らねどもその日のわざに田草とるなり。
- 此の風に不足いうかや夏座敷。
- 此の經の心を得れば世の中の賣り買う聲も法を説くかな。
- 此の寒さ不幸者奴が居り所。
- 此の春は梅鶯もなかりけり民安かれと思う許りぞ。
- 此のは水に溺れず火に燒けず三國一の黍團子なり。
- 此の道や行く人なしに秋の暮れ。(芭蕉)
- 此の世さえうからうからと渡る身は來ぬ世の事を何に思うらむ。(良寛和尚)
- 此の世のみ世とな思いそ後の世も其の後の世も此の世なりけり。
- 此の世をばお暇乞いと線香の煙となりて灰さようなら。
- 戀しくば尋ね來て見よいずみなる信太の森のうらみ葛の葉。(白隱和尚)
- 戀し戀しで獨りねる夜は二人寢てこそ山はかくれめ。
- 戀しさに石ともなりぬ一念に君を松浦小夜の夢さえ。
- 戀しさにこがれこがれて見る夢の明けて云われぬ胸の苦しさ。
- 戀という其の源を尋ぬれば小便尿(し)ケツ(木+厥)の二つなりけり。
- 戀にこがれて思いにやつれ痩せたはお前にわからぬか。
- 戀にこがれて鳴く蝉よりも鳴かぬ螢が身をこがす。
- 戀の岸なら流るる水も横に行きます渡し船。
- 戀の病の藥は主にどうぞ逢わして下さんせ。
- 來いと云うたとて行かりょうか佐渡へ佐渡は四十九里浪の上。
- 來いと云わずに手を叩かずに歌の文句で悟りゃんせ。
- 來いと云われず手を叩かれず歌の文句で悟りゃんせ。
- 來いと呼ばれて又其のよきは足の輕さかそのはやさ。
- 小路うろうろ大通りいそげ雨風雪は何のその。
- 弘法大師生佛死ねば野原の土となる。(一休和尚)
- 聲はせで(ず)身をのみ焦がす螢こそ云うより勝る思いなるらめ。
- 聲はすみて北斗にひびく砧(きぬた)かな。
- 聲はすれども姿は見えぬ君は深野のきりぎりす。
- 聲はすれども姿は見えぬ庭で(に)松葉の音ばかり。
- 聲はすれども姿は見えぬ見えぬ所に主かよう。
- 小山にもならで流るる清水かな。
- 木枯らしの果ては見えけり海の上。
- 虚空天なく氣樂な世界動けど動かぬ不動さん。
- 虚空には根もなき草を生ずれば結ばぬ露に月ぞ宿れる。
- 極樂にさして用事はなけれども彌陀を助けに行かにゃなるまい。
- 極樂は何處の事かと思いしに酒の機嫌で寢たる處ぞ。
- 極樂は十方億土遙かなりとても行かれぬ草鞋一足。
- 極樂は西にもあらで東にも北(來た)道さがせ南(みな身)にぞある。
- 極樂へ行かんと思う心こそ地獄へ落つる初めなりけれ。
- 極樂へ嫁にやったと思やすむ思やすめども思やすめども。
- 極樂も地獄も己が身に在りて鬼も佛も心なりけり。
- 極樂や地獄があるとだまされて喜ぶ人におずる人人。(蜷川新右衞門)
- 苔衣きたる岩をばさもなくてきぬぎぬ山の帶をこそすれ。
- 心あての雲もかすみじ麓にて天の原不二の白雪。
- 心あらむ人に見せばや津の國の難波わたりの春の景色を。(後拾遺・能因法師)
- 心から使う我が身の手足さえ思う樣にはならぬ世の中。
- 心からとて我が土地離れ知らぬ他國で苦勞する。
- 心から流るる水をせき止めておのれと淵に身を沈むなり。(一遍上人)
- 心から横しまに降る雨はあらじ風こそ夜半の窓を打つらめ。(日蓮上人)
- 心切れ竹身は折れ松よ袖に涙のこぼれ梅。
- 心切れ竹身は折れ松よ袖に涙のこぼれ梅。
- 心ここになきかな時鳥。(西鶴)
- 心こそ心迷わす心なれ心に心心許すな。(最明寺入道時頼)
- 心して見よ吉野の櫻鶯なかして人を呼ぶ。
- 心靜かに假寢の枕月と添い寢も亦たのし。
- 心ぞとなに名をつけて思うらむ一物もなき元の面目。
- 心だに岩木となれば其のままに都の中も住みよかるべき。
- 心だに誠あるなら今一聲の實がききたい時鳥。
- 心だに誠の道に叶いなば祈らずとても神や守らん。(菅原道眞)
- 心だに誠の道に叶いなば祈らずとても我はかまわん。
- 心だに心が合いさえすれば性が合うが合うまいが。
- 心とてげにや心のなきものを悟りは何の悟りなるらん。
- 心とは如何なるものと思いしに目には見られず天地一杯。
- 心とは如何なるもの言うやらん墨繪にかきし松風の音。
- 心とは如何なるもの言うやらん繪にかく竹のともずれの聲。
- 心とは如何なるものにてあるやらんそういう者が心なりけり。
- 心なき身にも哀れは知られけり鴫立つ澤の秋の夕暮れ。(新古今・西行)
- 心一筋奮鬪めされ拍手喝采自在王。
- 心一筋世は三味線の絲を離れてなりはせぬ。
- 心細さに出て月見れば雲のかからぬ山はない。
- 心より心は安くなるものを心で騒ぐ我が心かな。
- 心より外に出雲の神もなし此の身社と仰げ人人。
- 心より外に入るべき山もなし知らぬ所をかくれがにして。(無難禪師)
- 心をば水の如くにもちなして方と圓とをものにまかせん。
- 志深き淵には音もなし乞食のありし世語る月見哉。
- 志深き淵には音もなし必ず波は淺き瀬に立つ。
- 志山を拔くてふ力にも戀の重荷を君いかにせん。
- 小言言わずに勉強めされ誠なければ屁か風か。
- 此處も風彼處も波の朝風やすからざりと千鳥なくなり。
- 此處も旅又行く先も旅なれば一寸此處らで一休み。
- ござれみせましょ虚空の輕業身すぎ世わたる繩の上。
- 腰は腐れど不動の姿幾代ゆるがぬ活き佛。
- 古則とは關を鎖ざせる扇をば打ち叩き割る石瓦なり。
- こぞの今日別れし時の今とても忘れねばこそ思い出さめ。
- こぞの實は今年の種となりにけり今年の實のり來年の種。(二宮尊徳)
- 東風吹かば匂おこせよ梅の花主なしとて春を忘るな。(菅原道眞)
- 今年や豐年青物店も瓜や茄子のあたり年。
- 今年や豐年穗に穗が咲いて道の小草も米がなる。
- 事足らぬ事な思いそ鴨の足短くてこそ浮かぶ瀬もあれ。
- 事足れば足るに任せて事足らず足らで事足る身こそ安けれ。
- 子供らと手鞠つきつつ此の里に遊ぶ春日は暮れずともよし。(良寛和尚)
- 言葉たくみに身も世も忘れ末は腹いたあとまつり。
- 小袋に大千入れて花心。
- こぼれ松葉をあれ見やしゃんせ枯れて落ちても二人連れ。
- 今度來るなら來ておくれ深山の良い花を。
- 紺と烏紺と中で清十郎が寢た姿。
- 紺と前埀れ松葉のちらし待つに來んとはたより無い。
- 權平が種蒔きゃ烏がほじくる。
- 米の實は又來る年も米生えて老いまかるとも米は米なり。(二宮尊徳)
- 米蒔けば米草生えて米の花咲きつつ米のみのる世の中。(二宮尊徳)
- 菰(こも)着てもやつれ顏なき水仙花。
- これきりでもうないぞよと母は出し。
- これぞこの佛の道に遊びつつつくやつきせぬみのりなるらむ(貞心尼)
- これでこそ命もつづけ友涼み。
- これはこれはとばかり花の吉野山。
- これはこれはとばかり散る櫻花。
- これも世の塵と思えど散らぬ間に離れかねたる花の下かげ。
- これやこの行くも歸るも別れては知るも知らぬも逢坂の關。(蝉丸)
- かれやあれ泣いて笑うて別れては知るも知らぬも元の故郷。
- これを斯うすりゃ斯うなる事と知りつつ斯うして斯うなった。
- 衣手は雨に濡れつつ足曳の山田耕す人もあるかな。
- 怖い顏してにらんで居ても落ちて碎ける鬼瓦。
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- 咲いた咲いたについ浮かされて、春を尋ねて西また東、草鞋きらして歸って見れば、家じゃ梅めが笑ってる。
- 咲いた櫻に何故駒つなぐ駒がいさめば花が散る。
- 咲いた花なら散らねばならぬ兎角この世は廻りもの。
- 咲いて口惜しや千本櫻鳥も通わぬ山中に。
- 西行も牛も女朗も角力取土の化けたる伏見街道。
- 歳月は人またずとや散る櫻。
- 財寳を燒かぬ氣づかいするよりも駒こがさぬが藏でこそあれ。
- さかしまに汗の流るる田植えかな。
- 盃に泥な落として群燕。
- 坂でころんで提燈消して獨りゆく身は眞のやみ。
- 坂は照る照る鈴鹿は曇るあいの土山雨が降る(雨となる)。
- 坂は照る照る山里くもるあいの茶店や雨晴れる。
- さかりなる花の姿も散りはてて哀れに見ゆる春の夕暮れ。
- 下がるほど人は見上ぐる藤の花。
- 先立ちて後に執念殘すなよ常に願えば先は安樂。
- 先で丸くでりゃ私じゃとても角に出やせぬ窓の月。
- 咲くが花かや咲かぬが花かここに悟りの鳥は住む。
- 咲くと見し迷いよりこそ散る花を風のとがともかこちけるかな。
- 咲く花は見る人多し散る花の後を訪うこそ情けなりけれ。
- 咲くまでは草といわるる野菊哉。
- 櫻木を碎きて見れば花もなし花をば春の空ゆもちくる。(一休和尚)
- 櫻咲く浮世の花を下に見て心も高くなくひばりかな。
- 櫻にはなんの詞もなかりけり。
- 櫻花散るも開くも三吉野の山の中なるけしきなりけり。
- 酒なくて何のおのれが櫻かな。(作者不詳)
- 酒の香を月に吹き込む千鳥足。
- 酒のんで春の日永に千鳥足。
- 酒呑めば何時か心は春めきて借金取りも鶯の聲。
- 酒飮めばいとど寢られぬ夜の雪。 (芭蕉)
- 酒も肴も手を打ちや出來るどんな杣家も及びやせぬ。
- 咲けば散る散れば又咲く桃の花限り知られぬ命なりけり。
- 笹蟹の絲にかけたる身の程を思えば夢の心地こそすれ。
- 捧げたる心の花の香りには胡蝶も夢やさむらん。
- えられぬ光もあるにおしなべて隔て顏なる朝顏かな。
- 座敷住いの梅にも鳥が人目忍んで逢いに來る。
- さし當り今日の事のみ思え唯返らぬ昨日知らぬ明日の日。
- さし出づる鉾先うてよ物事におのが心を金槌にして。
- さした盃よく見てお受け中は鶴龜五葉の松。
- さして行く笠置の山を出でしより雨が下には隱れ家もなし。(大平記)
- 差引算盤零とは笑止ここが宇宙の原則か。
- さし向かう心も清き水鏡色つきもせず垢つきもせず。
- さす竹の君と相見て語らえばこの世に何か思い殘さむ。良寛和尚)
- 坐禪せば四條五條の橋の上往き來の人を深山木にして。
- 坐禪せば四條五條の橋の上往き來の人をそのままにして。
- 坐禪せば工夫もなさず床の上に只徒に居睡をする。
- 坐禪して工夫もなさず床の上に只徒らに夜を明かすな。
- 坐禪坐禪といわしゃるけれど尻の根ぶとがいとうござる。
- 誘う春風氷を解いてうれしや氣儘に花が咲く。
- 定めなき浮世の中と知りぬれば何れも旅の心地こそすれ。
- 定めなき浮世の夢を悟らずば闇のうつつになおも迷わん。
- 薩摩芋燒けよ埋めよ灰の中ひだるい時の腹をこやせよ。
- サッパリと埒を明けたる世の中に埒をあけぬは迷いなりけり。
- さてはあの月が啼いたか時鳥。(一三子)
- 悟り得て心の闇の晴れぬれば慈悲も情けも有明の月。
- 悟りては虚空の穴もなかりしに心せまくも穴と見るかな。
- 悟りても柳は同じ緑かな。
- 悟りとは己が心を責むるこそ悟りの中の悟りなりけり。
- 悟りとは悟りて悟る悟りなり悟る悟りは夢の悟りよ。
- 悟とりとは眉毛の先のつるしものあまり近くて見る人もなし。
- 悟りなば坊主になるな肴食え地獄へ行きて鬼に負けるな。(蜷川新右衞門)
- 悟りやこの世も一切空と解けて跡ない雪達磨。
- さなきだにいとど危うき露の身を落ちよとさそう萩の上風。(夢窓國師)
- 淋しさのどこまで廣く秋の暮れ。(土芳)
- 淋しさも習いにけりな山里に訪いくる人の厭わるるまで。(兼行法師)
- 淋しさや古堂に叫ぶ猿の聲。
- 模樣に浮世の品は變れども死ぬる一つは變らざりけり。
- 模樣に變れる相も變る身も業も一つの心なりけり。
- 模樣に心ぞとまる宮城野の花のいろいろ蟲の聲聲。
- さまざまにとけども説かぬ言の葉を聞かずして聞く人ぞ少なき。(夢窓國師)
- さまざまの顏ばかりなり涅槃像。
- 樣かえてのろりと出たり雲の中。(橘以南)
- 樣は扇の白地の地紙たたみ置くぞよわが思い。
- 五月雨の色や淀川大和川。
- 五月雨の空吹き落とせ大井川。
- 五月雨や夜も笠とる主の門。
- 寒ければ寒し心のなすところ。
- 寒さ凌げば草の屋なれど醉うて眠れば玉の床。
- さんさ時雨かかやの雨か音もせで來てぬれかかる。
- 山河大地フワリフワリと春の風。
- 三合の病に八石五斗の物思い。(白隱和尚)
- 三寸の舌で五尺の身體をば養いもする失いもする。
- 三千世界の鴉とともに主と添寢がしてみたい。
- 三度食う飯さえこわし柔かし思うままにはならぬ世の中。
- 三度食う飯にもかえて眺めばや花の下には何に不自由なく。(朝風)
- 小夜ふけてしばし赤子の泣きやむは母に添寢の夢や見るらむ。
- さらさらと滯らぬが佛なりよきも惡しきもるは鬼なり。
- 更でだに消ゆべき程の露の身を落ちよと叫ぶ萩の上風。
- 更に劣らぬ色香はもてど見下げられ谷の梅。
- 去り状のそばにこそこそ珠數をくり。
- 猿飛んで一枝青し峯の松。
- 猿飛んで一枝青し松の雪。
- さればとてさめずもあれよ迷い來てとても夢見るこの世なりせば。
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- し ↑ ↓ △
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- 死すと言えば死すとや人の思うらむ和すれば生ず人の身の上。
- 死にはせぬよそには行かぬ此處に居る尋ねはするな物は言はぬぞ。
- 死ね死ねと言うまで生きよ花嫁御。
- 死ねば諸共稼がば共よ門に立つにも二人連れ。
- 死ねよ死ね早く死ねよの親心。
- 死んでから佛というも何故ぞこごともいわず邪魔にならねば。
- 死んでから佛になるはいらぬ事生きたるうちに善き人になれ。(蜷川新右衞門)
- 死んで行くなら閻魔の帳に二人連れぢゃと書かせたい。
- 死んで別れは是非ないけれどあじきないぞや生き別れ。
- 四角であっても生まれは丸い豆腐の親達や豆じゃもの。
- 四季の移りは萬代不朽色即是空。
- 四季の花咲く山里戀し花は人まつ人は花。
- 四十九年迷うた果ては一字不説としゃれを張る。
- 四十九曲り細山道を眞直ぐに通らにゃ一分たたぬ。
- 四大とて地水火風を合わすれば我を名づけて佛とはいう。
- 四百四病の病の中にこんな病があるものか。
- 師の恩をなげて報ゆる角力取。
- 十五夜の月の樣なるあの主さんと若しも切れたら眞の闇。
- 十六島田に蝶々がとまるとまる筈だよ花じゃもの。
- 宗祖等の心の行くかた尋ぬれば昨日空とぶ鳥の跡。
- 姑めと嫁と小袖の裏はらに心のつまがいかで合うべき。
- 姑めの杓子あたりのひどければ嫁御の足がすりこぎとなる。
- 姑嫁ふる嫁下女ふる下女はつるべの繩をふる。
- 鹿の鳴く音になびかぬ紅葉君に操を立田川。
- 叱られてみたや涙の袖しぐれ。
- 敷島の大和心を人問わば朝日に匂う山櫻花。(本居宣長)
- 色即是空空即是色茶屋達磨詠うも舞うも般若波羅密。
- 時雨るるや我も古人の夜(世)に似たる。(蕪村)
- 繁り合う青葉が上を風吹けば山さえ動く心地こそすれ。
- 繁り合う峯の雜柴吹き分けて風の入れたる窓の月かげ。
- 獅子の大喝大空ぬけて有無の返答影もなし。
- 隨えば嵐も弱る絲柳柳の絲に風折れはなし。
- 下見れば我に勝りし者もなし笠とりて見よ天の高さを。
- 七景は霧にかくれて三井の鐘。
- 靜かなる峯の社の松の根を枕に眠る狐の子哉。
- 靜かなる深山の奧もなかりけり元の心がつきて廻れば。
- しづやしづしづの小田卷くりかえし昔を今になすよしもがな。
- 忍ぶ戀路と夜降る雪は人目忍んで深くなる。
- しのぶ姿をちらりと見られ月を怨んだ時鳥。
- 忍ぶれど色に出にけり我戀は物や思うと人の問うまで。
- 暫くは雲の上にも出でて見よ雨の降る夜も月をこそ見ん。
- 慈悲の目に憎しと思う者はなし科ある身こそ猶ほ憐なれ。
- 澁い柿でも色つきやふいと心知らずの手に落ちる。
- 澁柿のそのまま甘しつるし柿。
- 澁かろか知らねど柿のつるし柿。
- 絞る小袖の露より深い定めなき世に啼く蚯蚓。
- 清水チョロチョロ岩間を出でて沖へ軍艦のせに行く。
- 眞實に守る力の弱ければまづ我が身からもてぬ世の中。
- 眞實の目があかぬからうろたえて我と我が見る憂目辛い目。
- 眞實の目が醒めたなら世の中の憂きも苦患も皆嘘の皮。
- 信州信濃の新そばよりも私しやお前のそばがよい。
- 信心によりて利益ありと知れ佛も下駄も同じ木のきれ。
- 眞如の月をばとやかく言うて人は涅槃の雲のかげ。
- 眞の心は打とけおいて他人顏すりゃなお可愛い。
- 仁と義と勇に優しき武士は火にさえ燒けず水に溺れず。
- 霜枯れに殘りし青葉二ツ三ツ四ツ。
- 霜よけに破れ傘きたあの菊さえも蝶がこがれて逢いに來る。
- 釋迦阿彌陀地藏菩薩と名はあれど同じ心の佛なりけり。
- 釋迦阿彌陀名をつけばこそ佛なれをえば凡夫なるべし。
- 釋迦阿彌陀作りかゆれば下駄足駄變れば變るものにぞありける。
- 釋迦達磨定家家隆も知らぬ歌の役にもたたぬなりけり。(一休和尚)
- 釋迦と云う惡戲者がこの世に出でて多くの人を迷わするかな。(刈)
- 釋迦逃げて彌勒すすまず今日の秋。
- 釋迦如來文殊罔明引きつれてそれからそれへ深山木の奧(春)。(祖曉)
- 釋迦も又阿彌陀元は人ぞ菓子我も形は人にあらずや。
- 釋迦文殊觀音勢志とこのゆえに説く。
- 借金の山時鳥啼く聲は又もかけとり又も掛取り。
- 舍利子見よ空即是色花ざかり。(小笠原長生)
- 主人迷えば妻子も共に桐の一葉も心せよ。
- 須彌山をつぶてとなして打つ時は虚空碎けて二つ三つ四つ。
- 須彌山をとってつぶてに打ち見れば虚空碎けて二つ三つ四つ。
- 春風に綻びにけり桃の花枝葉に殘る擬もなし。(道元禪師)
- 巡禮の歸り土産やもとの顏。
- 手練の浮船手仕をとってやがてやがて苦海を身につける。
- 生死事大のがれはないぞ諸人よ昨日の夢は今日もさめばや。
- 生死事大無常迅速いそげいそげ日が暮れる。
- 生死皆僞りなれる世の中に誠というも何にあらばこそ。(一休和尚)
- 諸行みな無常なりとて世を捨つる人の心になるよしもがな。
- 障子一重の薄紙とれば奧は般若の酒團子。
- 世帶かためて落ちついて今じゃ嬉しい夫婦仲。
- 少林の雪に埀れたる唐紅に染めよ心の色淺くとも。(行誠上人)
- 白絲の數色色に染むるのも紺屋一人の分別のため。
- 白魚に價あるこそ憾みなれ霜枯れ殘る青葉三ツ四ツ。
- 白雲と見れば麓の心地して花分け登るみ吉野の山。
- 白雲に埋れはてにし箱根山往き來の人もたえにけるかな。
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- 好いた藝妓になぜ手をかけるかさがうつれば花が散る。
- 好いた事ならするがよいほんに若い時ゃ二度はない。
- 好いた女房も主も苔の下にて舍利頭。
- 好いた者には好かれるものよ好いたお前に好かれたい。
- 水月鏡花といわんすけれど影が命のわしじゃもの。
- 吸付け煙草につい迷わされ大事奈お金を煙にする。
- 末の世は祈り求むる其の事のしるし無きこそしるしなりけれ。
- 末は袂をしぼると知れどぬれて見たさの花の雨。(睦奧宗光)
- 姿こそたとえ深山の猿なりと心持をば人に見られよ。
- 姿こそ深山隱れの朽木なれ心は花になせばなりらん。
- 菅笠を膳にして食う田植えかな。
- 筋を立つれば切らねばならぬ惡くもつれた凧の絲。
- 涼しけりゃ涼し過ぎると人の口戸はたてられぬ夏の夕暮れ。
- 涼しさや大千世界月一輪。
- 涼しさや南閻樹下の夕涼み。
- 涼しさや荷を卸したる馬の聲。
- 涼しさや荷を卸したる裸馬。
- 涼しさや彌陀成佛の以前より。
- 涼しさや彌陀成佛のこのかたは槿花の露こそ花の飾なれ。
- 雀殿御前の御宿はどこぢゃいな。
- 捨てし親さぞ捨てかねて捨つるらむ捨てられし子の哀れ泣く聲。
- 捨て所なきを心のしるべにてその品品に任せぬるかな。(無難禪師)
- 捨て果てて身はなきものと思いしに寒さ來ぬれば風ぞ身に染む。(大燈國師)
- 捨て果てて身はなきものと思えども雨の降る日は寒くこそあれ。
- すねた枝にも程よく添うて人が見上ぐる松に蔦。
- 須磨の浦浪又打ちかえり磯を迷わす友千鳥。
- すみ上がる心の月の影はれてくまなきものはもとの境界。
- 澄み濁る時はありとも言葉にも止まらぬものは谷川の水。
- 住み捨つる宿を何處と人問わば嵐や庭の松に答えん。
- 住み慣れし此の世は假の宿なるに心とどむる人ぞはかなき。
- の岸の姫松みどりして幾千代かけて枝葉榮えん。
- 澄めば澄む澄まねば澄まぬ我が心澄ませば清き月も宿らむ。
- 駿河には過ぎたるものが二つある一に富士山二に原の白隱。
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- せ ↑ ↓ △
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- 精出せば凍る間もなき水車。
- 蜻蛉の飛び返しても元の枝。
- 關で女郎買うてもうちの嬶みれば千里奧山の古狸。
- 關の五本松一本伐りゃ四本あとは伐られぬ夫婦松。
- 世尊粘華し迦葉笑う笑うにくはに經陀羅尼。
- 瀬戸の小さな柿の木に雀が三羽とうまった雀が三羽とうまった。(千代萩)
- 善惡は鏡にうつる影法師よくよく見れば我が姿なり。
- 善もいや惡もいやいやいやもいや唯だ茶を飮みて寢たり起きたり。
- 善もせず罪も作らず終わる身は佛もほめず閻魔叱らず。
- 千差萬別浮世は車去年の花が又咲いた。
- 千尺ものびるみどり緑のね子の日かな。
- 千疊の座敷もちても何かせんたった寢床は一疊ですむ。
- 千日のしめを引くとも邪慳なる人の家には神は來らず。
- 千日の施行をなして願うとも心ゆがめる人はうかばじ。
- 千なりや蔓一筋の心より。
- 千兩箱富士の山ほど積んだとて冥土の土産になりはすまいぞ。
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- そ ↑ ↓ △
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- 雜巾をあて字で書けば倉と金あちらフクフクこちらフクフク。
- 増減は器傾く水と見よあちらに増せばこちら減るなり。 (二宮尊徳)
- 添うて見せます私の意氣地約束したのが反古になる。
- 底ぬけの袋はかろし芥子の花。
- 底ぬけの袋に實あり芥子の花。
- 底ひなき淵やは騒ぐ山川の淺き瀬にこそあだ花は立て。(古今・素靈法師)
- そこ踏むなゆうべ螢の居たあたり。(橘以南)
- そこを押されちゃ一句も出ない覺えある身の脈どころ。
- 祖師も言う直指人心見性と曲げて示すは外道なるべし。
- 育つほど土に手をつく柳かな。
- 麁朶の雪ほのぼの白き干潟かな。
- 卒爾には心得がたき法の道坐禪きびしき人のみぞ知る。
- 袖ひじて結びし水のこおれるを春立つ今日の風や解くらむ。(古今・紀貫之)
- そとで戸たたきゃ内からあける月に恥ずかし我が姿。
- 外からは手もさわられぬ要害を中から破る栗のいが哉。
- 其日暮らしの朝顏さえも思い思いの色をもつ。
- 其儘に心ばかりを住みかえよ里の菴も深きかくれ家。
- 其昔國の名もなし國の國世は世の世なり人の世はなし。(二宮尊徳)
- そんなにすねずにこち向きしやさんせ味な話があるわいな。
- 染めて惜しいよ江戸紫元の白地がましじゃもの。
- 染めねども己が色色おのづから松は緑に雪は白妙。
- 染めねども己が色色おのづから柳は緑花は紅。
- 染めねども山は緑になりにけり己が色色花も咲くなり。
- 染めばやな心のうちを墨染に衣の色は兎にも角にも。
- 剃りたきは心の中の亂れ髮頭の髮は兎にも角にも。
- そりや聞こえませぬ傳兵衞さん、お詞無理とは思わねど、そも逢いかかる始めより、末の末まで云い交し、互いに胸を明しあい、何の遠慮もないしょうの世話しられても恩にきぬ、ほんの女夫と思うもの、大事の大事の夫の難儀、命の際にふり捨てて、女の道がたつものか。(近頃河原の達引)
- それ其處に豆腐屋の聲聞こゆなりお三出て呼べ行きすぎぬ間に。
- それ其處を足すべらすな心せよ。
- それ來たやれ來たすたすた坊主、此處からお江戸へ三百里、跣足(裸)で道中(が)なるものか。(或は來たを出たとする)
- それぞれに名のほしげなり春の山。
- そろばんにかからぬものは無常にて二八も二九も同じ年なり。
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- た ↑ ↓ △
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- 誰が死んだ彼が死んだと言う中に我が死んだと人に言わるる。
- 誰が身にもありとは知らで迷うなり神の形見の大和魂。
- 誰ぞや誰ぞ誰れよ誰ぞ誰れ誰れぞこそ誰ぞよ誰れはたれなれ。(蜷川新右衞門)
- 田を開き米を作りて施さば命ある者皆慕うらむ。(二宮尊徳)
- 田を開き米を作りて讓りなば幾世經るともこれにとどまる。(二宮尊徳)
- 田を深くよく耕してやしなえば祈らずとても米やみのらむ。(二宮尊徳)
- 田の草を取つて踏み込む(其の儘)肥しかな。
- 田一枚植えて立去る柳かな。(芭蕉)
- 田植をも歌も忘れて田植哉。
- 大海を飮み乾かして又吐けば三世の諸佛浮きつ沈みつ。
- 大根をひんぬいて道を教えけり。
- 大衆引連れ選佛堂に眞僞切斷の佛心宗。
- 大小を知らぬ虚空を家として普請もいらず物ずきもなし。
- 大聲一喝天地に響く耳の管主目をまわす。
- 大道長安空手をさげて佛祖不傳の法を練る。
- 大名と仰がれ乍暑さ哉。
- 絶えもせずもとの水にもあらぬ哉只だ谷川の人の世の中。
- 倒されて竹は居ながら起上る倒せし雪は跡方もなし。
- 倒れても弓矢は捨てぬ案山子かな。
- 手折らるる人に薫るや梅の花。(千代女)
- 高いとて自慢するなよ富士の山時時頭春風ぞ吹く。
- 高い山から谷底見れば瓜や茄子の花盛り。
- 高い山から低い山見れば低い山らはやっぱり低い。
- 高き賤しき隔てはするな山もよければ海もよし。
- 高き賤しき隔ての中にへだてなきこそ人の人。
- 高しとて思いあがるな不二の山山裾野も同じ月は照るなり。
- 薪とる山賊(やまがつ)無くば都なる宿の煙の如何で立つべき。
- 瀧登る鯉の心は張弓のゆるめばおちるもとの河瀬に。
- 焚く程は風がもてくる落葉かな。(良寛和尚)
- たく程は風がもてくる五合菴。
- 竹に雀は仲よいけれど變れば敵(かたき)餌ざし竿。
- 竹に雀は仲よいけれど末は(切れりゃ)敵(かたき)の餌ざし竿。
- 竹に雀は品よくとまる。
- 竹にや振られ柳に振られ積もる思いの吹雪かな。
- 竹笛の聲のありかを尋ぬれば地水火風の四大なりけり。
- 筍や曲っていずる垣の外。
- 田子の浦打出でて見れば白妙の不二の高嶺に雪は降りつつ。(山部赤人)
- 田子の浦波間に富士のかげ見えて小舟漕ぎゆく山の頂。
- たしなべば諸事何事もなるものぞ後生の道も樂しめばなる。
- たたかれて眠りさめけりねぐら鳥。
- ただでゆかれる身を持ちながら己が分別いろいろに。
- 佇む(たたず)な往くな戻るな居坐るな勝つな負けるな知るも知らぬも。
- 疊叩いてこちのひと、私しゃ悋氣(りんき)ぢゃなけれども、一人でさしたる傘なれば、片袖ぬれよう筈がない。片袖ぬれても悋氣するな、聞けばお前の元馴染(なじみ)、悋氣するのは此方から。
- 立竝ぶまつをそのまま柱にて結びかけたる山がつの菴。
- 立向かう人の心は鏡なり己が心を寫してや見ん。
- 立寄りて影も寫さじ眺むれば浮世にいずる谷川の水。
- 立ちはたつ居るは居るには面影のはなれず添いて空しかりけり。
- 訪ね來て深山の奧を見渡せば月は雲井に露は梢に。
- 立田川無理に渡れば紅葉が散るし渡らにゃ聞かれぬ鹿の聲。(久坂玄瑞)
- 立田みやげに紅葉をもろたさては落した秋心。
- 立田山紅葉をわけて入る月は錦を包む鏡なりけり。
- 立てぬ的引かぬ弓にて放つ矢は當らざれどもはづれざりけり。
- 立てば芍藥坐われば牡丹歩く姿は百合の花。
- 立てそむる志だに撓まねば龍の顎(あぎと)の珠も取るべし。
- 豎横の五尺に足らぬ草の菴結ぶもつらし雨なかりせば。
- たとえ此身はどうなと儘よ主の爲には命まで。
- たとえ姑は鬼でも蛇でも可愛い殿御の親ぢゃもの。
- たとえ山中三軒家でも住めば都の花が咲く。
- 谷川に落ちて流るる橡殼(とちから)も身を捨ててこそ浮ぶ瀬もあれ。
- 谷川の雪や氷と隔つれど融くれば同じ谷川のみず。
- 溪合霧のさながら海に似て浪かと聽けば松風の音。
- 樂しまぬ昨日は過ぎつ明日しれず今日の一日を心靜かに。
- 樂しみは春の櫻に秋の月家内仲よく三度喰う飯。
- 樂しみは夕顏棚の下凉み男はててら女(め)は二布(ふたの)して。
- たのもしな一つの塵の中にだに四方の佛のこもらぬはなし。
- 頼むぞよもしもまどろむ隙あらば吹き驚かせ峯の松風。
- 旅僧や一人喰う花の陰。
- 旅に病んで夢は枯野をかけ廻る。(芭蕉)
- 旅枕結ぶ夢路の心をば空にも降るや秋の村雨。
- 玉川に咲ける卯の花岸白白と雪か月夜かおく霜か。
- 玉の緒よたえなばたえね長らえば忍ぶることの弱りもぞする。(式子内親王)
- 誑さば誑せ誑されもしよがわたしゃお前を誑しやせぬ。
- たまに逢う夜の嬉しい中を憎くやつき出す明けの鐘。
- 手向けするとて佛の前へ二人向かいて小鍋だて。
- たん木そん木はいづくに生える無分別なる胸の中。
- 丹精は誰知らずとも自ら秋のみのりの勝る數數。(二宮尊徳)
- たんのうをするとせぬとの胸の内地獄もあれば極樂もあり。
- 蒲公英や幾日踏まれて今日の花。(彫卯)
- たんぽぽや人に踏まれて笑い顏。
- 埀乳根の親の殘せし形身なりいや愼まん我身一つを。
- 埀乳根は色髮ながら如何なれば子は眉白き人となるらん。
- 盥から盥に移る五十年枕一つも我が物でなし。
- 達磨さん明日は花見じゃ鬚をそれ。
- 達磨さんこち向かしゃんせ花の春。
- 達磨さんちとこちら向け世の中は月雪花に酒と三味線。
- 達磨忌や今にたずぬる片草履。
- 誰知らぬ袖も名高き琴の音に夜ふけて通う峯の松風。
- 誰に見せよか紅かねつけてほんに主へのしんぢゅだて。
- 誰とてもとまるべきかは仇し野の草の葉毎にすがる白玉。
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- 地にたたず天にもつかず中にいず形はなくて色の白さよ。
- ちうちうと歎き苦しむ聲きけば鼠の地獄猫の極樂。(二宮尊徳)
- 智惠の釣瓶が屆かぬ故に君の心が汲みにくい。
- 智惠の袋は大きい程が邪魔にならずに身の便利。
- 智惠もなく情も知らぬ金持は二代續かずさても氣の毒。(一休和尚)
- 地獄にも木陰があるか夏の暮。
- ちさいとて油斷ならぬぞ小さかずき。
- 地主(じじゅ)からは木の間の花の都かな。(季吟)
- 父戀し母戀してふ幼子の心を常に忘れずもがな。(古歌)
- 父は打ち母は抱きて悲しめば變る心と子や思うらん。(抱いて悲しむを)
- 父は照り母は涙の露となり同じ惠に育つ撫子。
- 父母に使う扇の要より次第次第に末廣うなる。
- 父母に呼ばれて假の客に來て心殘さず歸る古里。
- 父母の意見は柿に似たるかな甘い所も澁い所も。
- 父母の影ぼし踏むな子はいかに身あしをあげて頂きもせよ。
- 父母の供養するぞと思うなよ我らが父母か父母がわれらか。
- 父母のしきりに戀し雉子の聲。(芭蕉)
- 父母の惠や露のおきどころ。
- 父母未生の佛祖も共に殺すも活かすもお手のもの。
- 父母も其の父母も我が身なり我を愛せよ我を敬せよ。(二宮尊徳)
- 爺は山へ柴刈りに婆は川へ洗濯に。
- 父に似て餓鬼とな成りそ大寺の金剛力士の姿なれ(山家集)
- 千千の山萬峯に入り去りて只一息に入る人ぞ入る。
- 千鳥とは一つ飛んでも千鳥なり三つ舞うても蝶は蝶なり。
- 千早振る神のまことの珠は今茲にこそあれみな身にありと。
- 千早振る神代もきかず龍田川からくれないに水くぐるとは。(在平業平)
- 一寸つまんで淺瀬を渡る深くなる程丸裸。
- 一寸つまんで振り抽くわえ紙を取り出す螢狩り。
- 一寸姉さん片袖ひけば知りませんよとはねつける。
- 一寸見染めりや恥ずかしそうに顏に紅葉の色娘。
- 千代能が戴く桶の底ぬけて水もたまらず月も宿らず。(加賀の千代女)
- 蝶蝶蝶蝶菜の葉にとまれ菜の葉がいやなら手にとまれ。
- 蝶蝶や花の上下を爭わず。
- 蝶のとぶばかり野中の日影かな。(芭蕉)
- 女郎の誠と玉子の四角みそかみそかによい月夜。(白隱禪師・粉挽歌)
- 散り椿あまりもろさについで見る。
- 散りてこそいとど櫻は目出度けれそうぢやけれどもそうぢやけれども。
- 散りぬればにおい許りを梅の花ありとや柚に春風の吹く。(新古今・藤原有家)
- 散りぬれば後はあくたになる花を思い知らずも迷う蝶かな。
- 塵の世と云うはうそなり今朝の雪。
- 縮緬や錦に綾を着飾りてそれで心は包まれはせず。
- 智力金力強氣だけれど人は情の道にすむ。
- 散る時の心安さよ芥子の花。
- 散ればこそいとも櫻は目出度いものと悟り乍らも辛い雨。
- 散ればこそいとど櫻はめでたけれうき世に何か久しかるべき。
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- ついに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思わざりしを。(業平朝臣)
- 杖の下にも鬼神宿るうかと觸るるな噴火口。
- 使い古びて今更無理ぢや末は白波捨小舟。
- つかぬ鐘に響く程鳴る撞木哉。
- 束の間も油斷をするなひとときが千里の違いとなると思いて。
- 月入りて影法師我れとなりにけり。
- 月影に命を捨つる猿よりも沈みはてたる我心かな。
- 月影の至らぬ里はなけれども眺むる人の心にぞ澄む。
- 月影は何處の里も照らせども迷い心に心へだつれ。
- 月影はさこそ明石の浦なれど雲井の秋は猶も戀しき。
- 月影や四門四宗も只一つ。(芭蕉)
- 月今宵草木もともに光りけん鷺も烏もすみかすみかに。(二宮尊徳)
- 月月に月見る月は多けれど月見る月は此の月の月。
- 月と日を雨の草鞋となしてこそ天地の上に行脚こそすれ。
- 月の姿は萬波に躍る風は白浪沖津島。
- 月の色に心を清くそめましやみやこを出でぬ我が身なりせば。(新古今・西行)
- 月の夜に又鳴き盡す不如歸。
- 月花にさして心をとどめねばさもあらばあれ雨風の音。
- 月花に迷うてすこし樂まん悟りきつてはいらぬ春秋。
- 月は傾くしんしんと心寂しき鳥の聲。
- 月は傾く話は積る撞かせともない曉の鐘。
- 夜はしんしんと更けて寂しき鐘の音。
- 月一つ影いろいろのをどりかなつんぼ唖己が心で合點する。
- 月も日も通わぬ山に住むからは竹の柱に世をは捨てたい。
- 月も日も西へ西へと入相の鐘こそ知らす極樂の道。
- 月も月花も昔の花ながら見る者の物になりにけるかな。(無難禪師)
- 月も田毎にうつるは影よ眞の有明空にすむ。
- 月や吾吾や月かと分ぬまで心も空も有明の月。
- 月を鏡に心の池に蓮華淨土の人となれ。
- 月をぽんやり眺めて待てば西行でなくてもかこち顏。
- つきて見よひふみよいむなここのとを十とおさめて又始まるを。(良寛和尚)
- つくづくと生れぬ前を案ずるに戀しかるべき父母もなし。
- つく人はさぞ寒からん鐘の聲。
- 付け置きも其の名に迷うことなかれ食うて見て知れお萩牡丹餠。
- 蔦かかる谷の埋木秋來ればおのが葉ならで紅葉しにけり。
- 愼みを人の心の根とすれば言葉の花もげにぞありける。
- つつまじき新手枕の心をばいも世の道の末も忘るな。
- 務めてもなお務めてもつとめてもつとめ足らぬは務めなりけり。
- つとめすりやこそ縮緬寢卷親は襤褸(ぼろ)きて軒に立つ。
- つとめする身は田毎の月よ何處へ眞がうつるやら。
- 勤むべき事も思わず歌い舞い遊びすすめは不忠なるらむ。(二宮尊徳)
- 務むべき業も思わず食い飮み遊び過せば苦しかるらん。(二宮尊徳)
- 常にただ心正しくたしなみて慈悲善根を專らにせよ。
- 常に行く道だに更にわかたなん積れば雪も黒く見ゆらん。
- 常の道ふみ迷うなよ臘月。
- 妻もなし親も子もなし家もなし一層死んだがましかいな。(親-參照)
- つまらぬは小さき智惠袋。
- 罪あれば我をとがめよ天津神民は我が身の生みし子なれば。
- つんぼよく聞け鐘や太鼓でうき世をうち拔く聲ぞすれ。
- 積る思いは岩間の清水直にお前にや汲み兼ねる。
- 積る恨みの雪さえ解けて完爾笑顏の春の川。
- 積る雪さえ解けたと見えて山もニッコリ笑い出す。
- 露おかぬ方もありけり夕立の空より廣き武藏野の原。(太田道灌)
- 露毎に月の光るや草の上。
- 露さえも厭う大和の女郎花降るアメリカに袖はぬらさじ。
- 露散りて心にかかる雲もなし今日を限りの夕月の空。
- 露の身は何處の方に消えるとも心は南じ花の臺(うてな)に。
- 露の身を露とし知らは秋の田のかりそめならぬ浮世なるべし。
- 露の世は露の但ながらさりながら。(一茶)
- 露をなど仇なるものと思いけむ吾が身も草におかぬばかりを。
- つらい吹雪も辛棒が大事いつか笑うよ庭の梅。
- 辛い吹雪も辛棒が大事何を笑うか夜の梅。
- つらい悲しい思いも晴れて約束かため身をかため。
- 鶴の一聲小鳥はちぢむ名刀斷麻風寒し。
- 鶴は龜井戸千年を契るやがてはしっぽり臥龍梅。
- 鶴は千年龜は萬年。
- 鶴は南洋生死を超えて時や來たれば笑みもらす。
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- 手摺にもたれて化粧の水を何處に捨てよか蟲の聲。
- 手取鍋己れは口がさし出たぞ雜炊たくと人に語るな。(一路居士)
- 手に取るなやはり野におけ蓮花草。(瓢水)
- 手にとるも心許すな扇だに裏表ある人の世の中。
- 手に結ぶ水に宿れる月影の有るかなきかの世にも住むかな。(拾遺・紀貫之)
- 手に結ぶ水に宿れる月影も廣き江に住む月も變らじ。
- 手は埀れて足は空なる男山枯れたる技に鳥やすむらん。(正徹書記)
- 手はふるう足はよろつく齒はぬける耳遠くなり目はうとくなる。
- 手も足も衣に包む祖師達の坐禪する間も老いる世の中。(二宮尊徳)
- 手や足の汚れは常に洗えども心の垢を洗う人なし。
- 手を拍く魚は出て來る塵は逃ぐ下女は茶をくむ猿澤の池。
- 手を泊てば鯉は寄り來る鹿は逃ぐ下女は茶をくむ猿澤の池。
- 手を拍てば下女は茶を汲む鳥は立つ魚寄り來る猿澤の池。
- 手をたたき尻うちたたく馬喰市。
- 出來あいの山ですますや今日の月。
- 出來不出來どちらでもよき瓢箪(ふくべ)哉。
- 庭前に白く咲いたる椿かな。(鬼貫)
- 底頭は心や高し百合の祐。
- 天下晴れとは云うたるものの晴れて別かるる松の月。
- 天才は一分の靈感九分の汗。
- 天地自然の淨化の主は萬古不休のお骨折り。
- 天と地と腹におさめて乞食かな。
- 天と地と團子にまるめひと飮みにぐつと飮めども咽喉につかえず。
- 天も地も一つによせて飮む人をまつ毛の尖で突飛ばしけり。
- 出る息の入る息またぬ世の中にのどかに君は思いけるかな。
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- 兎も角も心一つを住みかえよ山も浮世も外ならばこそ。
- 兎や角とたくみし桶の底ぬけて水溜まらねば月も宿らじ。(千代女)
- 兎も角と波る人こそはかなけれ同じ浪華の蘆と知らずや。
- とやせまじ斯くやせまじと思いつつ今年も今日を限りとぞする。(澤菴和尚)
- 遠からぬ元(末)の悟りの都鳥問う人のなきぞ悲しき。
- 貴きも貴とからぬも鳥邊山煙の色は變らざりけり。
- 道中するなら豆裔の樣に豆で四角でやわらかに(で)。
- どうなりとなろと柳に出られては氣を春風の勢もなし。
- 訪う人もなき茅茸の吾菴は降る霰さえ音せざりけり。
- 説きおける心の道は變るとも同じ雲井の法をこそ見れ。
- 燈龍踊るや月見の船に星は飛び交う夏花火。
- 時しあれや山田の畦(あぜ)の白鷺も雪にて己が身をかくしける。
- 時によりては憂世を越えて無限原野にいき休め。
- 時は今雨が下知する五月闇。
- 時わかず降れる雪かと見るまでにかき根もたわに咲けるうの花。(後撰和歌)
- 解きもせぬ御法の庭の松の風夢の中にも夢さますらん。
- 毒を食わば皿まで。
- とけぬれば同じ流れの水なるを雪や氷とへたてつる哉。
- どこの土になろうとままよ落葉かな。
- 所變れば品變る浪華の聲は伊勢の濱荻。
- 年一夜去年は昨日のかけとりに今日は馬追う春の豐かさ。
- 年毎に咲くや吉野の山櫻木を割りて見よ花のありかを。
- 年すでに明けて達磨の目尻哉。
- 年年こ思いやれども山水を汲みて遊ばん夏なかりけり。
- 年も若水新玉娘抱いて寢松や七五三(しめ)飾り。
- 年寄れば人には輕く思われてたちいに重き身こそつらけれ。
- 年を經し絲の亂れの苦しさに衣のたては綻びにけり。(安倍貞任・源義經)
- 年を經て浮世の橋を見返えればさても危く渡つる哉。(古歌)
- 隣まで來たる無常の旅衣好き連れなれどチト用がある。
- 唱うれば吾も佛もなかりけり南無阿彌陀佛の聲ばかりして。(一遍上人)
- 唱うれば吾も佛もなかりけり南無阿彌陀沸南無阿彌陀佛。(一遍上人)
- 唱うれば吾も佛もなかりけり池のかもめが浮きつ沈みつ。
- 唱うれば吾も佛もなかりけり磯の鴎は波にそよそよ。
- 飛び過ぎて餌を見失う蛙哉。
- 飛び込んだ力で浮ぶ蛙かな。
- 飛ぶ鳥鳴く雀一文一文貰ふ乞食。
- 乏しかりし時を忘れて食好みこのみの多き秋の山猿。
- とんと突きすとんと倒れ起きよと知る何んのその間に歌が出ようぞ。
- 蜻蛉つり今日は何處まで行つたやら。(千代女)
- 友來るを今か今かと松が技に早やさしかかる秋の夜の月々。
- 燈火の消えて何處にゆくやらん暗きは元の住家なりけり。(一休和尚)
- 豐葦の深野が原を田となして米を作りて喰う樂しさ。(二宮尊徳)
- 虎と見て石にも征矢はたつた弓ひきなゆるべそ摩訶菩提心。
- 虎の勇ある鬼神でさえも慈悲の前には猫となる。
- 虎は千里の藪さえ越すに障子一重がままならぬ。
- とらまえたもう逃さぬぞ阿彌陀佛(殿)わしと一緒に御座れ地獄へ。
- 鳥居とは上も曲らず下すぐに生くる御代の神しるしなり。
- とりえなしだと言わんすけれどとりえないのが我がとりえ。
- とりつむればへちまの皮もうき世忘れて一休み。
- 鳥なき國の蝙蝠(こうもり)が羽を延して我儘をする。
- 鳥なれば君のお寢間に巣をかけて思う戀路を語りたい。
- 鳥の音は麓の雪に響きつつ軒場におつる有明の月。
- 鳥も適わぬ玄海灘を何を便りに通わんす。
- 鳥邊山咋日も今日も煙立つ明日は誰が身が薪なるらん。
- 鳥邊山捨てにし人のあと問えは塚にぞ殘る露の白玉。
- 取るものも取らるるものも大空の雲のゆききの如くなりけり。
- 泥に住めども心は清い咲いて綺麗(見事)な蓮の花。
- 泥に育つたあやめぢやけれど清い心の花の色。
- 泥の水にも染まらで蓮の苦勞しとげて咲いた花。
- 泥棒を捕えて見れほ吾が子なり、斬り度くもあり斬り度くもなし。
- 泥水も葉に玉なせば蓮の露。
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- な ↑ ↓ △
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- 菜か芥子か種まく手元わからねど花咲く時はいちじるしき哉。(二宮尊徳)
- 菜の花や月は東に日は西に。(蕪村)
- 名に迷う浮世の中の大だわけ我が名も知らぬものとなれかし。
- 名に迷う人の心の愚かさよ喰て知りたいお萩牡丹餠。
- 名も知れぬチリチリ草の露までに影をわけつつ宿る月影。
- 名をかえよ高野の山の女郎花。
- ないしょないしょ、ないしょのお話あのねのね、にこにこ、にっこりねい母さん、お耳へこっそりあのねのね、坊やのお願い聞いてよね。(童謠)
- 仲が良いとて禮儀を欠くな圓という字も角がある。
- 長談議する坊さんの口のはた灸をすえたや千も二千も。
- なかなかに山の奧こそ住みよけれ草木は人の是非(さが善惡)を言わねば。
- なかなかに人里近くなりにけりあまりに山の奧たをずねて。(見渡せ參照)
- なかなかに身を思わねば身も安すし身を思うこそ身は苦しけれ。(無能)
- なかなかに好き衣恥じよ野の菫。
- なかなかに折々の雲のかかれるは月をもてなすかざりなりけり。
- 長かれと思う氣持ちの短くて伸びて詮なき髮の長さよ。
- 長き夜に茂き人目に待ち受けてかわす枕の夢は短し。
- 長生きは只働くの外はなし流るる水のくさらぬを見よ。
- 長らえばまたこのごろや忍ばれむ憂しと見し世ぞ今は戀しき。(藤原清輔)
- 流るるや紅葉一葉の浮き沈み。
- 流れては海となるべき谷水もしばし木の葉の下くぐるなり。
- 仲よかれ士農工商のり合うて船にこぞって渡る世の中。
- 永き日も囀り足らぬ雲雀かな。(芭蕉)
- 鳴かぬ時(空)只一杯の時鳥。
- なきなどと人には云うて有りぬべし心に問わば何と答えん。
- 泣き面に蜂。
- 亡き人も今は佛となりにけり名のみ殘りて苔の下露。
- 鳴くが眞か鳴かぬ實か蝉と螢のこんくらべ。
- なくななくなそれ迄まめで歸る鴈。
- 名古屋おきやせ犬山おきせ無理な言葉のない樣に。
- 名古屋おきやせ犬山おきせいやな彦根のない言葉。
- 無しと言えばなしとや人の思うらむ答えもぞする山彦の聲。(一休和尚)
- 無しと言えばあるに迷える心かなそれを其儘それと知らねば。(無難禪師)
- なしと見てあるは常なり水の月。
- 爲せば爲る成さねばならぬ何事も成らぬは人の爲さぬなりけり。
- なぞもかく露の命と言い置きて消ゆれば人の袖ぬらすらん。
- なつかしや勝瀬樣。
- 夏草の露打ち拂い訪われても言葉の花の色香だになし。
- 夏草や兵士どもが夢のあと。(芭蕉)
- 夏衣我は單衣に思えども君が心に裏ぞあるらん。
- 夏蝉のもぬけ果てぬるみとなれば何か殘りてものおじをせん。
- 夏の日は何處も同じ夏の日ぞ冬は何處も同じ冬の日。
- 夏の夜も寢ざめがちにてあかしけり世の爲思う事多くして。
- なでさすり大事にするも手あぶりのつめとうならぬうちでこそすれ。
- なでられて打つにもまさる涙哉。
- 七重八重花は咲けども山吹のみの一つだになきぞ悲しき。(後拾遺・兼明親王)
- 何か知らぬ二人の喧嘩何か知らねど仲なおり。
- 何事のおわしますかは知らねども忝けなさに涙こぼるる。
- 何事の何とはなくて悲しきは猿鳴く山のあかつきの月。
- 何事もありそうもなく蟲の聲。
- 何事もあるべき樣になす人は此の世も安し後の世もよし。
- 何事も言うべきことはなかりけり問うて(わで)答うる松風の音。
- 何事も移りのみゆく世の中に花は昔の春に變わらず。(良寛和尚)
- 何事も己が歩みに似たりけり右踏みしめて左行くなり。(二宮尊徳)
- 何事も變りのみゆく世の中に同じかげにも澄める月かな。
- 何事も今日の歡樂すぎぬれば明日は吾身の苦患とぞなる。
- 何事も心一つが惡しければ千萬藝も有る甲斐もなし。
- 何事も事足りすぎて事足らず徳に酬ゆる道の見えねば。(二宮尊徳)
- 何事も時ぞと思え夏着ては錦にまさる麻の狹衣。
- 何事ものり超えて行く世の人の心に固き關守りもがな。
- 何事も見ざる言わざる聞かざるぞ只佛にもまさるなりけり。
- 何事も皆僞りの世なりけり死ぬると云うも誠ならねば。(蜷川新右衞門)
- 何事も報い有る世の道理を知らぬ人こそ果敢なりけり。
- 何事も夢まぼろしとさとりなばうつつなき世の住居なりけり。(一休和尚)
- 何故に家を出でしと折ふしはわが身に恥じよ墨染の袖。(良寛和尚)
- 何をがな參らせばやと思えども達磨宗には一物も無し。(一休和尚)
- 何をくよくよ川端柳水の流れを見て暮らす。(高杉晉作)
- 何をくよくよ北山時雨思いなければ霽れてゆく。
- 何を憂え何をうれしと思い寢の夢ばかりなる假りの此の世に。
- 難波津に咲くやこの花冬籠り今は春邊と咲くや此の花。(古今・王仁)
- 難波津や田螺のふたも冬籠り。
- 波風の靜かなる日も船人は梶に心をゆるさざらなん。
- 波にゆらるるあの月影は放たれながらも丸くなる。
- 波の音聞かじが爲の山籠り聲色かおる松風の音。
- 波の音聞くがいやさに山家に住めばまたさわがしき松風の音。
- 波の音聞くがいやさに山家に住めば又も聞こゆる鹿の聲。
- 波をけたてて陸路に上がり天津御國の花と咲け。
- 南無阿彌佛の御名と思いしに唱うる人の姿なりけり。
- 南無阿彌佛の御手にかくる絲のをわり亂れぬ心ともがな。(新古今・法圓)
- 南無遍照金剛 南無遍照金剛 南無遍照金剛。
- 南無をさけ四字と五字とで九字になり一字の事で住持迷惑。(一休和尚)
- 南泉の一刀恐るる猫の戀。
- 何時も峯におきたや花の雲。
- 何として跡もなき身の浮雲に心の月をへだてそめけん。
- 何となく植えしが菊の白きかな。
- 何のその岩をも通す桑の弓。
- 何のその100萬石も笹の露。
- 奈良の都の牡丹の花に不淨をもらす鹿の群。
- 習わじな澤邊の蟹は横にのみ行けば行かるる道はありとも。(行誠上人)
- 鳴子をば己が羽風に動かして心と騒ぐ群雀かな。
- なれなれと如何に親しき中なりと心に不斷禮儀忘るな。
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- に ↑ ↓ △
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- 似たもの夫婦。
- 二八十六天下の小町えくぼ一つに城倒す。
- 二本目は與一もこまる扇かな。
- 握る手先の温みが廻り解けて嬉しや雪の肌。
- 肉身を地水火風にかえしてはさて其の主は誰を云うらん。
- 憎うて叩くと思うな煙管可愛けりゃこそ口も吸う。
- にくや私をまた鶴が岡うまい手管の鎌倉で。
- 憎むとも憎み邊すないつまでも憎み憎まれ果てしなければ。
- 憎まれてながらふる人冬の蠅。(其角)
- 濁りある月は移るぞと思えばやがてすむ心かな。
- 濁りなき清水の池は影すみて見るに涼しき鏡なりけり。
- 濁りなく心の中に水澄まばのどけき星の影も見えなむ。
- にしきにも綾にもあらぬ堪忍のふくろのひもは見事なりけり。
- 西にせよ東にもせよ吹く風の誘う方へとなびく草草。(二宮尊徳)
- 西へ向き十萬億土と思えどもよくよく見れば彌陀は目前。
- 西ばかり彌陀の淨土と思いつつ皆身(南)にあるは誰も悟らず。
- 日中の我が影法師足の本。
- 女房は弁財天と美しい美人と云うも皮のことなり。
- にょっぽりと秋の空なる富士の山。(鬼貫)
- 俄かに曇った夕立空も降って霽れたよ夏の雨。
- 庭にさえさぞな落葉は東山。
- 庭に生うるチリチリ草の露までも影を細めて月ぞ宿れる。
- 庭の面はまだかわかぬに夕立の空さりげなく澄める月かな。(新古今)
- 庭の雪間のあの梅さえも寒苦凌いで花が咲く。
- 庭掃いて雪を忘るる箒かな。
- 庭掃いて出でばや寺に散る柳。(芭蕉)
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- ぬ ↑ ↓ △
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- 主が梅なら私は柳仲を取りもつ春の風。
- 主と幾千代いく春かけて契り合わせし山椿。
- 主と定まりゃ化粧もせずに堅い心の結び髮。
- 主とともなら片山里に手鍋さげてもいといやせぬ。
- 主と二人でする苦勞ならどんな苦勞もいとやせぬ。
- 主と私は硯の水よ人が水差しゃ薄くなる。
- 主の身は假の身體のことなるぞやがてかえせば執着もなし。
- 主はわし故わしや主故に人に怨みはないわいな。
- 主も主だよこうつめられてつめる女もつめる奴。
- 主を思えば照る日も曇る澄める月夜も闇となる。
- 盜人がかくるる山をたずぬれば地水火風のうちにこそあれ。
- 盜人に取られぬ爲の用心は六尺棒より貧乏がよし。
- 盜人の取り殘したる窓の月。
- 盜人も己が寳をとられけり尋ねて見れば直ぐな心を。
- 盜人を捕えて見れば我が子なり、斬りたくもあり斬りたくもなし。
- ぬる間のみ人にかわらぬ思い出を浮世にかえす曉の鐘。
- ぬるまのみ夢ぞとさめて知りぬれど覺むると同じ夢の世の中。
- 濡縁や薺こぼるる土ながら。(嵐雪)
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- ね ↑ ↓ △
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- 寢ても夢起きても夢の世の中を夢と知らねば夢はさめけり。
- 寢ても夢醒めても同じ夢なれば夢と云う言の葉もなし。
- 寢ても醒めてもさめても寢ても好きなお主の事ばかり。
- 寢ては夢醒めてはうつつ片時も忘れかねたる君が(主の)面影。
- 寢ては考え起きては思い更に忘るる暇はない。
- 寢られずば起きて居よかし梓弓あたらざれどもはずれざりけり。
- 願わくは花の下にて春死なん其のきさらぎの望月の頃。(續古今・西行)
- 猫の子を引き裂き(提げ)見れば一二三斬りて捨てれば無孔の鐵槌。(大燈國師)鼠の淨土に猫の一聲。
- 鼠見やんせ板戸をかじる道樂息子は脛かじる。
- 熱血こもれば海山おろか岩も黄金も何のその。
- ねぼけめさるな時ならなくに逢いにくるとは門違い。
- 眠る柳に思いをかけてヒソヒソ燕がゆり起す。
- 懇ろになるも口故よい仲を隔つる樣にするも口故。
- ねんねこよねんねこよ、ねんねこのお守りは何處へ行った、あの山超えて里へ行った、里の土産に何賈うた、でんでん太鼓に笙の笛。(子守唄)
- 念佛もうわの空では後の世の爲にもならず寢言同然。
- 念佛も余り申すは無駄な事もし極樂を通り超しては。
- 念佛を主と定めて煩惱の客人來るとも心許すな。
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- は ↑ ↓ △
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- 葉櫻や寺中の人の聲ばかり。
- 這い上がる蟹の心や冬の月。
- 蠅打ちて我が身にかかる埃かな。
- 俳諧は其の中にあり梅柳。
- 這えば立て建てば歩めの親心吾が身に積もる老いを忘れて。
- 果敢無(はてな)くも己が心に責められて獨り苦しむ罪の報いに。
- 果敢無くも仇なる花の色々に露も心を染むるものかな。
- 果敢無さや朝見し人の面影の立つは煙の夕暮れの雲。
- 果敢無しや思えば日々の別れかな昨日の今日に又も逢われず。
- 墓場見しゃんせ苔むす石塔經のかわりに蟲の聲。
- 馬鹿は氣樂じゃ理屈の種が胸にないので氣が廣い。
- 掃き捨てる塵だに積めば自ら竹の子等まで皆太るらむ。(二宮尊徳)
- 掃き捨てて何おか語る庭の雪。
- 萩原の月の光を眺むれば花の錦ぞ露ぞこぼるる。
- 白隱の隻手の聲を聞くよりも兩手を打って商賣をせん。(りん女)
- 麥飯にやつるる戀か猫の妻。
- 化け化かす狐狸はさもなくて人の心の化けぬ間ぞよき。
- 掃けば散り拂えばなたも塵積もる人の心も庭も落ち葉も。
- 禿げ山の前に鳥居はなけれども後ろにすこし神ぞまします。
- 化け物の正體見たり枯れ尾花。(也有)
- 箱根山籠に乘る人乘せる人その又草鞋(を)作る人。
- 箸とらば天地御代の御惠皇(きみ)と親との御恩味え。(二宮尊徳)
- 橋の欄干に腰打ち掛けて月を眺めつ君を待つ。
- 橋は大阪京都は花か奈良の大佛三笠山。
- はじめは浮氣で出來たる中も今は互いに實と實。
- 恥を知れ恥を知らねば恥をかく恥にすぎたる恥はあらじな。
- 恥を知れぼちゃぼちゃ言うは足らぬから。
- 蓮白し元より水は澄まねども。
- 蓮になり菊になりせば有る無しに心とむな思うばかりぞ。
- 蓮の香や塵にはそまぬ朝心。
- 畑打ちや拜して歸る夕日かな。
- 幢が動けば心も動く動く心を出して見よ。
- 鉢の子に明日の米あり夕涼み。(良寛和尚)
- 八百の嘘を上手に竝べても誠一つにかなわざりけり。(拙堂和尚)
- パッと世間に廣がる浮き名元は時雨の傘の端。
- 初夢や思いの外の事ばかり。
- 初夢を見し心地して契る夜の明けて云われぬ胸のうれしさ。
- はてはさて筆をくわえて花の夢。
- 鳩に三枝の禮さえあるに手ですることを足でする。
- 花落ちて青葉若葉の世界かな。
- 花か霞か霞か花か云うに云われぬ今朝の春。
- 花さいて盛りはたったの三日かな。
- 花さかぬ身は靜かなる柳かな。(千代女)
- 花さかぬ身をすぼめたる柳かな。(乙由)
- 花盛り見しはいずこぞ塵一つ積もらぬさきの三吉野の山。
- 花散らす風の宿りは誰がする行きて怨みん吾に教えよ。
- 花と咲いては嵐に散れど春はつきせぬ主と知れ。
- 花となり針ともなれる花いばらその心根に二つやはある。
- 花ならば探りても見ん秋の月。
- 花ならば又來る春も咲きぬべし散りし吾が子は歸らざりけり。
- 花に遊ぶ虻など食うて友雀。
- 花に蝶々が私や氣がもめる來てはしげしげ迷わせる。
- 花に似て花にはなれぬ人心。
- 花に寢てよしや吉野の吉水の枕の下に岩走る音。
- 花のお江戸の今日この頃は樽を叩いて千鳥足。(古今・小野小町)
- 花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに。
- 花の笑顏に迷うた故に忍ぶ影なる晝の月。
- 花の雲鐘は上野か淺草か。(芭蕉)
- 花の夢ききたき蝶に聲もなし。
- 花の盛りに嵐のくどく落ちてかさなりや仲なおり。
- 花の三月小鳥でさえも蝶よ花よと踊り出す。
- 花の三月瓢箪さげて破顏微笑の花見酒。
- 花の時迷いしもこの枯野哉
- 花の山二丁登れば大悲閣。
- 花はいろいろ五色に咲けど君にみかえる花はない。
- 花は咲いても暫しの間からい實となる唐辛。
- 花は根に鳥は古巣に歸るとも人は若きに歸ることなし。
- 花ふんだ足は短し歸る鴈。
- 花見とは稻の花見が花見なり吉野初瀬はその上のこと。
- 花も實もあるあの朝顏は枯れたまがきも捨てはせぬ。
- 花も紅葉も今一つさかりゆくも歸るも道一つ。
- 花も紅葉も散りての後は松の操がよく知れる。
- 花嫁も杖つく雪のあしたかな。
- 花を肴にお酒を飮めば髭の達磨ものこのこと。
- 花を花月を月ぞと見る人の心なきこそ道の道なれ。
- 花を隔てた霞も今は深い心に立ちかわる。
- 花を見よ色香も共に散り果てて心なくても春は來にけり。
- 花を見よ盛りの中は春ばかり蕾も風に落つる世の中。
- 花を見るあなたも歩む命かな。
- 離れて見やがれ唯おくものか蓑の人形に五寸釘。
- 母が戀しけりゃ尋ねておいで母は信太の森に住む。
- 母樣に呼び起こされて夢醒めて話しも出來ず顏赤めけり。
- 濱までは海女も蓑きる時雨かな。(瓢水和尚)
- 萬難を笑って散らす梅の花。
- 腹くちく喰うてつきひく尼嬶(賤〈しず〉の女〈め〉)は佛に勝る悟りなりけり(二宮尊徳)
- 腹だちし時は此の世も後の世も人をも身をも思わざりけり。
- 腹に物もつが地獄持たぬ心の中が極樂。
- 腹に物持てば心が地獄なり持たぬ心の中は極樂。
- 腹を立つ心より火の燃え出でて我れと我が身を焦がしこそすれ。
- はらはらと落葉散りしく夕暮れに散らぬ時雨の音をこそ聞け。
- 拂うべき埃(ほこり)もなきに箒持つ人の心ぞ塵となりぬる。
- 拂うべき埃(ほこり)もなしと言う人を拂わん爲の箒なりけり。(天桂和尚)
- 拂うべき埃(ほこり)もなしと言う塵を拂うが爲の箒なりけり。
- はり傳う鼠の道も道なれど眞の道ぞ人の行く道。(行誡上人)
- 春秋の思いのみかは見るとなき憐れは夏のうたたねの聲。
- 春植えて秋の實りを願う身はいく世經るとも安さ樂しさ。(二宮尊徳)
- 春風に綻びにけり桃の花枝葉に殘るうたがいもなし(道元禪師)
- 春かと思えばじきに五月雨の空恐ろしき心なりけり。
- 春來ぬと黄楊(つげ)の枕の鶯を猶曙の夢かとぞ思う。
- 春來れば賤が藁屋も懷かしや軒端の上に鶯の鳴く。
- 春來れば夏きるものを拵えて今日の人一目(ひとめ)もあだに暮らすな。
- 春來れば都も鄙(ひな)もおしなべて柳は緑花は紅。
- 春雨のわけてそれとも降らねども受くる草木のおのがいろいろ。
- 春雨や菊も植えたし寢てもよし。
- 春過ぎて青菜隱れの梅が枝に殘る青梅二つ三つ四つ。
- 春立ちて匂える花の顏みればわれさえほほえまれけり。(土岐築波子)
- 春立てば花とや見るらむ白雪のかかれる枝に鶯の鳴く。
- 春のあとから暑さを忌むな花の跡には實を結ぶ。
- 春の海ひねもすのたりのたりかな。(蕪村)
- 春の草燒けども刈れども青青と。
- 春の野原はいつしか枯れて又來る春を松の山。
- 春の野を只一呑みや雉子の聲。
- 春は嬉しや霞の花で錦繰りだす吉野山。
- 春はいざ見にごんせ東山。
- 春は花秋は月あり冬は雪夏は涼しき風をこそ聞け。
- 春は花夏ほととぎす秋は月冬雪冴えて涼しかりけり。(道元禪師)
- 春は吉野に夏湖に秋は立田の紅葉狩り。
- 春めくや人さまざまの伊勢參り。
- はれて添うたる二人の仲は狹い路次さえさえ廣くゆく。
- はれやらぬ心の闇の暗きより(深き夜に)まどろまで見る夢ぞ悲しき。
- 晴れくもる人の心のうち迄も空に照らして清める月かな。
- 晴れてよし曇りてもよし富士の山元の姿は變わらざりけり。(鐵舟居士)
- 晴れやらぬ身に薄雲の棚引きて月のさわりとなるぞ悲しき。
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- ひいた三筋も結んだ縁も心合わせる丸裸體。
- 引き分けて見れば心の刃なれ寄れば忍の文字なりけり。
- 日頃にくむ烏の雪のあしたかな。
- 日にやけて雨に降らるる夏の草。
- 日は眼虚空は姿息は風海山かけてわが身なりけり。
- 火の車造る大工はなけれども己が造りて己が乘りゆく。
- 東より西へ入るさの月も日も南にもちて北を知らずや。
- 引かれなば惡しき道にも入りぬべし心の駒の手綱ゆるすな。
- 引き寄せて結べば草の菴にて解くれば元の野原なりけり。(慈鎭和尚)
- 引き寄せて結べば草の菴なり解かで其の儘野原なりけり。
- ひく息の出ずるを待たぬ斷末魔死出の闇路を誰と行くらん。
- 人多き人の中にも人ぞなき人になれ人人になせ人。(松翁道話)
- 人心松に等しきものならば常磐の色をともに契らん。
- 人知れず今は此の世のさざめ言命のかぎりあるかあらぬか。
- 人住まぬ山里なれど春來れば柳は緑花は紅。
- 人問わば海を山とも答うべし心を問わば何と答えん。
- 人問わば兎にも角にも答うべし心が問わば何と答えん。
- 人間(なか)に住みし程こそ淨土なれ悟りて見れば方角もなし。
- 人にきせて身は裸なり木綿哉。
- 人の親の心は闇にあらねども子を思う道に惑いぬるかな。(藤原兼輔)
- 人の事我にむこうて言う人はさこそ我が事人に言うらん。
- 人の爲身を惜しまぬが佛なり樂をしたがるもとは是れ鬼。
- 人のふり見て我がふり直せ道を修めて先にたて。
- 人の身の良きを言うとも惡しきをば言わぬは人の誠なりけり。
- 人の身は仲人頼み妻迎え子にかかるのが親の後なり。
- 人の世は夢にもかもな夢ならばさめて昔にたちかえらまし。
- 人は唯今日の勝利をよく知って後日にまける道理知らずや。
- 人は唯負けじと思う心こそやがて我が身の仇となるなり。
- 人の只善かれと思う諫め言耳に入らぬは愚なりけり。
- 人を皆吉野の山の花と見よ我を難波の葦と言うとも。
- 人もなく竹葉もかかる冬の野に虚空語れば石女も笑む。
- 人を助ける身でありながら憎くや夜明けの鐘を撞く。
- 獨り來て獨りで歸る道なるに道教えんと言うぞおかしき。
- 獨り住む宿こそ月は淋しけれ必ず山の奧ならねども。
- 一色は花に持たせり西瓜かな。
- 一かかえあれど柳は柳かな。(千代女)
- 一口にぐっと飮んだる水の味言うに言われず説くに説かれず。
- 一口に飮んだる水の味いを問う人あらば如何に答えん。
- 一聲は月が啼いたかほととぎす。
- 一聲もらして恥ずかしそうに雲に隱れたほととぎす。
- 一時雨しぐれてもとの月夜哉。
- 一筋に心定めよ濱千鳥いずくの浦も波風ぞ立つ。
- 一筋の蠶の絲もいろいろと織りて錦の着物とぞなる。
- 一つ莖二つに咲かぬ蓮花かな。
- 一つよりない私の命二人とはない人にやる。
- 一人來て一人歸るも迷いなり來たらず去らぬ道を教えん。(一休和尚)
- 日々、日々に積もる心の塵あくた洗い流して我を尋ねん。(二宮尊徳)
- 貧がいやなら働きめされ働く影に福來る。
- 百鬼夜行は昔の事よ今じゃ白晝驅けまわる。
- 百草の花や野山を吹き拂う蟲の聲まで殘らざりけり。
- 百年と千年着てもきれぬのはさて徳用な鶴の羽衣。
- 百までも長らえもせぬ身を持ちて惡行深き罪をつくりて。
- 百里二百里隔てて居れど同じ雲井の月を見る。
- 開かでは扇の風も蕾かな。
- 開かぬ内から色香を含み實に可愛や主の梅。
- 開き見る扇は花の蕾哉。
- 開けゆく道に出でても心せよつまづく事の在る世なり。
- 廣廣と虚空の定に入りもせで心せまくも穴に入るかな。
- 悟りては虚空も定もなかりしに心せまくも穴と見るかな。
- 拾いきし落ち葉の衣破れなば冬の住居に嵐をぞまて。
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- ふ ↑ ↓ △
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- 笛となり弓矢となりて呉竹の世は樣樣に變わりゆく哉。
- 笛吹かず太鼓叩かず獅子舞の後ろ足となる心やすさよ。
- 深い流れで添いとげながら何をまつかや川柳。
- 深草の源清坊も死んだげな我が身ながらも悲しけりかり。
- 福ならば袋に入れて貯えて禍いならば槌で碎かん。
- 福の神元を糺せば貧乏の神が追々出世したもの。
- 吹くなりになる風鈴の如くせば世の人毎にうとまれもせじ。
- 吹く時は音騒がしき山嵐も吹かざる時は靜かなるらん。
- 吹く時は音騒がしき山嵐も吹かざる時は何となるらん。
- 吹く風に力ありけん月影を碎きて見する葛の下道。
- 吹く風も長閑になりぬ朝日影神代ながらの春を見るかな。
- ふぐ汁や鯛もあろうに無分別。
- 吹けば行く吹かねば行かぬ浮き雲の風に任する身こそ安けれ。
- 富士山を丸めて呑んでのどに觸らず。
- 富士山を枕となして寢ころべば足は堅田の浦にこそあれ。
- 富士うつす田子の浦田のあしたには雪踏み分けて早苗取るなり。
- 富士の山ほどわし思わせて主は西行きよろりくはん。
- 富士の白雪朝日にとける今朝の雜煮は煮てとける。
- 不二一つうづみ殘して若葉かな。(蕪村)
- 無精さやかき起こされし春の雨。(芭蕉)
- 兩親を敬い仰ぐものならば内輪も圓く治まるぞかし。
- 二つなきものとなりえて一もなし墨繪の風のさても涼しき。
- 二人行く一人は濡れぬ時雨かな。
- ふたかかえあれど柳は柳かな。
- ふたもとの梅に遲速を愛すかな。(蕪村)
- 佛法と世法は人の身と心一つかけても立たぬものなり。
- 佛法と世法は人の身と心一つかけても立たぬなりけり。
- 佛法は鍋の月代(さかやき)石の髯(ほおひげ)繪に書く竹のともずれの聲。
- 佛法は障子の引手峯の松火打ち袋に鶯の聲。
- 佛法は桝ではからぬ米五升たかぬ鍋にて飯となりけり。(一休和尚)
- 佛法は柳の絲にさも似たり言うに云われずとくにとかれず。
- 佛法は朝夕なでし稚兒の髮いうにいわるるとくにかるう。
- 筆はよいもの海山越えて便り聞いたり聞かせたり。
- 懷に玉を抱きて居りながら果敢なや人の他所を尋ぬる。
- 船は帆まかせ帆は風まかせ勤めする身は客まかせ。
- 舟よべばただ川霧の答え哉。
- 踏まれても根強く忍べ道芝のやがて花咲く春は來ぬべし。
- ふみ迷う道と思えば古塚のあたりに誰か火をともすらん。
- ふみ讀めば昔の人はなかりけり皆今もある吾友にして。
- 分別の底たたきけり年の暮れ。(芭蕉)
- 踏めば惜し踏まねばゆかむかたもなし心盡くしの山櫻かな。
- 振り袖と留め袖とこそ變われども裸にすれば同じ姿よ。
- 降り積もる雪は旭にとけそめて靜かに聞こゆ軒の玉水。
- 古りにける池の心は知らねども今も聞こゆる水の音かな。(烏丸光廣)
- 古池や蛙飛び込む水の音。(芭蕉)
- 古道に積もる木の葉を掻き分けて天照神の足跡を見む。(二宮尊徳)
- 故郷と定る方のなかりせばわが行き先は家路なりけり。
- ふるさとも戀しくもなし旅の空都もついのすみかならねば。(平家・重衡しげひら)
- 故郷を我が諸ともにいでぬれば花と昔の物語せん。
- 降ると見て笠とる隙もなかりけり川中島の夕立の音。
- 降ると見ば積もらぬ中に拂えかし雪には折れじ青柳の枝。
- 降ると見ば積もらぬ中に拂えかし雪には折れじ青柳の絲。
- 降れば降れ積らば積れ其の儘に雪の染めたる松の葉もなし。
- ふれば先ず積もらぬ先に吹き捨てて風ある松は雪折れもなし。
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- ほ ↑ ↓ △
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- 穗は出でて未だ稻とは言わねども心の中のに秋風ぞ吹く。
- 法華經は寢亂れ髮にさも似たり解くにとかれず結うにいわれず。
- 法華經は八卷(山木)ばかりに限らじな松竹櫻當意即妙。
- 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。
- 豐年じゃ滿作じゃ明日は檀那の稻刈りじゃ。
- ぼうふらや蚊になるまでの浮き沈み。
- ほかの草木は萎えて後に松の操がよく知れる。
- 欲し惜しや憎くや可愛と思わねば今は世界がまるで我もの。
- 星の數程男はあれど月と見るのは主ばかり。
- 法性の無漏路ときけど我住めば有爲の浪風立たぬ日もなし。
- ポット世間へ廣がる浮き名元は時雨の傘のはし。
- 佛とて外に求むる心こそ迷いの中の迷いなりける。(一休禪師)
- 佛とて寺を探すは無駄な事願う我が身が佛なりけり。
- 佛とは何だらぼうし柿の種下駄も佛も同じ木のはし。(蜷川新右衞門)
- 佛とは何を岩間の苔筵唯慈悲(信)心にしくものはなし。(一休禪師)
- 佛とは何を岩間の苔筵結ぼれとくる己が黒髮。
- 佛とは誰が結びてや白絲の賤のおだまき繰り返し見よ。(天桂和尚)
- 佛にも神にもならぬ己が身は野山の露と消ゆるなりけり。
- 佛にも神にも人はなるものをなど心をばあだにもつらん。
- 佛は慈悲して慈悲を知らず。
- 佛尋ねて佛を連れて目玉落とすな又鼻を。
- 時鳥(ほととぎす)自由自在に鳴く里は酒屋へ三里豆腐屋へ二里。
- 時鳥啼きつる方を眺むればただ有明の月ぞ殘れる。(千載・藤原實定)
- 時鳥啼く一聲の嬉しさに今見し夢を忘れける哉。
- 時鳥啼くや五尺のあやめぐさ。(芭蕉)
- 時鳥確かに鳴いたと窓の戸を開けて見たれば月ばかり。
- 時鳥鳴き鳴き飛ぶぞ忙しき。
- 時鳥時鳥とて明けにけり。
- 時鳥時鳥とて寢入りけり。(調和)
- 施しを捨てるものとは思えども後は必ず増して榮ゆる。
- 骨かくす皮には誰も迷うなり花の姿のうつろわぬ間に。
- ほのばのとあくる扇の中見れば見えつ隱れつ面のかげ哉。
- ほのばのと明石の浦の朝霧に島がくれゆく船をしぞ思う。(古今・讀人不知)
- ほんに情ないあの稻妻は二目見ぬ中消えて行く。
- 本來もなき古えの我なれば死に行く方も何もかもなし。(一休和尚)
- 盆に丸子の憂世を外に五十三次花もみぢ。
- 煩惱が菩提となるのためしには澁柿を見よ甘干となる。
- ほめそしる人の振舞見る時は牛は牛連れ馬は馬連れ。
- 掘らぬ井の風なき水に波たちて影も形もなき人ぞ汲む。
- 掘らぬ井に溜らぬ水の波立ちて影も形も無き人ぞ汲む。
- ほろほろと鳴く山鳥の聲きけほ父かとぞ思う母かとぞ思う。(行基菩薩)
- 惚れた弱味をつけ込む風が梅の匂いを好きにする。
- 惚れて居りやこそ悋氣もするがどうもない人どうもない。
- 惚れて通えば千里も一里逢わで歸れば又千里。
- 惚れて通えば千里も一里廣い田圃も一またぎ。
- 惚れてはまれば泥田の水も呑めば甘露の味がする。
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- 曲る道にも程よく添うてなびく姿や絲すすき。
- 馬糞でも元を糾せは野山のすすききりぎりす鳴かした事もある。
- 負けてのく人を弱しと思うなよ智慧の力の強き故なり。
- 蒔けば生え植えれば育つ天地のあわれ惠の限りなき世ぞ。(二宮尊徳)
- 誠と通えば千里も一里君も達者にわしも無事。
- 誠なら枝を交すな絲柳たとえ色よい風が吹くとも。
- 増しもせず又減りもせず法の道塵も芥もとどめざりけり。
- 叉見んと思いし時の秋だにも今宵の月に寢られやはする。(道元禪師)
- また心なき身にしあれば己れなりけり不二のたか山。
- 松風に麻の衣を縫いつけて月を枕に波の小筵。
- 松島やああ松島や松島や。(作者不詳)
- 松島や始めて驚く八百洲。
- 松という字は仲良い間君と僕との差し向い。
- 松に梅奧の社は問わずとも。
- 松の風淺茅が露に月の影これより外に訪う人もなし。
- 松浦小夜姫一念通す私しや岩でもこの通り。
- 待てど暮せど便りはないが主はどうして御座るやら。
- 招き團扇でおさえし螢君を待つ間の手慰み。
- ままよ斯うなりや是までだ義理も人情も時による。
- ままよ三度笠横ちよに冠り旅は道づれ世は情。
- ままよやれ住めばこそあれ難波江のよしと言うともあしと云うとも。
- 守るとも思わずながら小山田のいたずらならぬ案山子なりけり。(道元禪師)
- 迷いが夢なら悟りも夢よ夢が醒めなきゃ埒あかぬ。
- 迷い心が(も)悟りの元よ月も濁りの水(中)に住む。
- 迷いぞとしる心こそさとりなれさとりとしるはまよいなるべし。
- 迷いぬる心の雲のありぬれば智惠も情も有明の月。
- 迷うから地獄極樂隔つれど一つ心の別れなりけり。
- 迷わずに眞直に行け雪の道。
- 丸い碁石に四角な碁盤白と黒との後手先手。
- 丸い心と見上げる月も元は角ある三日の月。
- 丸い玉子も切りよで四角ものは云いようで角が立つ。
- 丸くとも一と角あれや人心あまり圓きはころび易きぞ。
- 丸盆に豆腐をのせてゆくちんば丸く四角で長く短く。
- まるなれやただ圓かれや人心角のあるには物のかかるに。
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- 身にうとき技だに身をば助けたり心よ元の心忘るな。
- 身に持てる玉といえども磨かずばあたら光りは世には知られじ。
- 身を思う身をば心を苦しむるあるに任せて有るぞあるべき。
- 身を輕く心素直に持つ人はあぶなそうにてあぶなげのなし。
- 身を削り人をば救う摺古木の此の味わいを知る人ぞ知る。
- 身を知れば人の科とは思わぬに憾み顏にもぬるる袖かな。
- 身を捨ててかかる此の身が何に怖かろう渡る世間に鬼はない。
- 身を捨てて此處を先頭と勤むれば貧しき事も知らで年經む。(二宮尊徳)
- 身を捨てて世を救う人もあるものを草の菴に隙もとむとは。(良寛和尚)
- 身をつみて人の痛さぞ知れける戀しかりけり戀しかるらん。
- 見渡せば海と河との行き逢いの潮瀬にかえる水の白浪。
- 見渡せば桔梗かるかやこきまぜて山邊ぞ秋のもなかなりける。
- 見渡せば出來不出來あり案山子哉。
- 見渡ば西も東もなかりけりおのれおのれが住家にぞある。(二宮尊徳)
- 見渡せば人里近くなりにけりあまりに山の奧を尋ねて。
- 見渡せば迷い悟りはなかりけり己れ己れが心にぞある。(二宮尊徳)
- 見渡せば柳櫻をこきまぜて霞ぞ野邊の匂いなりける。
- 見渡せば柳櫻をこきまぜて都ぞ春の錦なりける。(古今・僧素性)
- 見上ぐれば鷲津山見下せば繁(しげ)獅子濱の釣船。
- 見せばやな見る人稀な寒牡丹。
- 見ざる聞かざる云わざるの三つよりもかまわざるこそ勝さるなりけれ。
- 見捨てられたりや團扇でさえもあちらこちらで邪魔をする。
- 見ず聞かず思わず知らぬ思い出を何とて己が外になすらむ。
- 見ずもあらず見もせぬ華の面影は心のいろに現れやせん。
- 見る中に早やいろいろとからくりの變り易きは人心なり。
- 見る人の心まかせや梅柳。
- 見るままにまた心なき身にしあれば己れなりけり天上の星。
- 見る儘に皆其儘の姿かな柳は緑花は紅。
- 見るや如何に仇にも咲ける朝顏の花に先立つ今朝の自露。(宮本武藏)
- 見る(し)や如何に加茂の競いの駒くらべ駈けつ返すも坐禪なりけり。
- 見ればしおらしさわれば怖し見捨てかねたる鬼あざみ(枝の栗)。
- 見れば只何の苦もなき水鳥の足にひまなき我が思いかな。
- 見れば見る計りなりけり紅葉葉の知るか知らぬかひらひらと散る。
- 見れば見渡し棹(さお)さしや屆く何故に屆かぬ我思い。
- 實がいると稻はうつむく身が重くなる程人はのし上るなり。
- 三井寺の門叩かばや今日の月。(芭蕉)
- 三日月に地は朧なり蕎麥の苑。(芭蕉)
- 三日月の櫛を落して五月雨髮を何處に啼いたか時鳥。
- 三日月の頃より待ちし今宵かな。
- 三日月の水に寫れる影見れば上にかたかた下にかたかた。
- 磨いては磨いただけに光るなり性根玉でも何の玉でも。
- 磨けど磨けど地が鐵なれば何時か地金のさびが出る。
- 右に持つはしに力を入れて見よ左の酒がやむかつのるか。(二宮尊徳)
- 右佛左衆生と拜む手の中ぞゆかしき南無の一聲。
- 操正しきあの松が枝を床の眺めにして見たい。
- 水石に激する所河鹿なく。
- 水莖の跡も涙に霞みけりありし昔の事を思えば。(良寛和尚)
- 水底に映れる月のありと見てとるに取られぬ猿澤の池。
- 水鳥の羽うち振りて立つ時は頭ふらふら雫たらたら。
- 水鳥の行くも歸るも跡絶えてされども道は忘れざりけり。
- 水鳥の行くも歸るもあと絶えて忘るる事と忘れけるかな。
- 水鳥は水に住めども羽ぬれず海の魚とて鹽のしまばや。
- 水鳥や向うの岸へつういつい。(惟然)
- 水波と名は異なれど春の海。
- 水に言え問われて我に蝸牛。
- 水に映ろが野末に照ろが月の光は變りやせぬ。
- 水に心を寫せば風が中を動かす池の藤(月)。
- 水に順(素直)な心を見せて風に浮氣な川柳。
- 水になりたや泉の水に見るも涼しき夏の月。
- 水の面に數書くよりも果敢なきは佛求むる人の心ぞ。
- 水の面に夜な夜な月は通えども心もとめず影も殘さず。
- 水もかな船の往來(ゆきき)は絶えはてて何ともなりて世をぞ渡らん。
- 水深き淵には音のたたぬなり必ず浪は淺瀬にぞ立つ。
- 水をさす程ある床の花心散らさず色を増す。
- 三十路余り吾も狐の穴に住む今馬鹿さるる人もことわり。(大燈國師)J
- 路あれば行きて拂わん久方の月の桂にかかる叢雲。
- 路の邊に倒れし儘の石文は落つる木の葉に埋れにけり。
- 路もなく人も通わぬ山中に不思議や此處に柴の焚きさし。
- 道に入るには皮相をぬけて無量佛の里に住め。
- 道のべの木樺(もくげ)は馬にくわれけり。(芭蕉)
- 道は大道眞直すすめ兎角小路は迷い路。
- 緑なる一つ草とぞ春は見し秋は色色の花にぞありける。(古今、讀人不知)
- 皆人の貪瞋愚癡の惡水は三途の川の流れとぞなる。(休和尚)
- 皆人の晝寢の種や秋の月。(貞徳)
- 峯の色谷の響もみなながらわが釋迦牢尼(御佛)の聲と姿と。(道元禪師)
- 實る程頭のさがる稻穗かな。
- 耳に見て眼に聞くならば疑わじおのずからなる軒の玉水。
- みみずくや枯技さがす花の中。
- 妙藥で長血白血は治せども身持ち不將は醫者もかなわず.
- 明星や櫻さだめぬ山かつら。(其角)
- み吉野の山のあなたに宿もがな世の憂き時のかくれがにせむ.(古今・讀人不知)
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- 無と言えばなしとや人の思うらん蓮の葉落ちて何もなければ。
- 無二膏や萬能膏の奇特より親孝行が何につけても。
- 向う通るは清十郎ぢやないか笠がよう似た管笠が。(白隱和尚)
- 笠が能く似て(似たとて)清十郎であればお勢詣りは皆清十郎。
- 向うは住吉手前は須磨よ互に浮名が高燈籠。
- 向う百倍鬼神も恐る忍の徳には影もなし。
- 昔より人の捨てざるなき物を拾い集めて民に與えん。(二宮尊徳)
- 武藏野の草の葉に置く白露は夜鳴く蟲の涙なりけり。
- 武藏野の草踏み分けて蟲の音を尋ぬる袖ぞ露にぬれつつ。
- 蟲も殺さぬ其の顏立ちで人の知らない罪つくり。
- 筵かぷつたあの水仙も寒苦凌いて花が咲く。
- 娘大方吉原雀嫁にほしいは不如歸。
- 結ひおきし草の菴もうち破れおき所なき冬の身のうさ。
- 結ぶも解くもただ風次第心すなおな絲柳。
- 六か敷く説きおき給う法の道知らで地獄へ落つるはかなさ。
- 睦まじき仲も此頃うとうとと隣に倉を建ててから後。
- 胸の曇りも何時しか晴れて空に涼しい月一つ。
- 胸の火の燃え立つ時のあるならば心の水をせき止めて消せ。(一休和尚)
- 紫の衣の色を耳に見て隻手の聲を目にや聞くらん。
- 村雨の音羽の山の不如歸なく一聲はまがわざりけり。(尊氏)
- 室の梅さえ開けば匂うかくす戀路は人が知る。
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- 目あき千人盲目千人。
- 目くら千人目明きは居ぬか見れど見えぬは情なや。
- 目玉よく開け岡惚れするな一皮むけば糞造機。
- 目出變目出度の若松樣よ技も榮える葉も茂る。
- 目で見せて耳で聞かせてして見せてやらせて褒めにや事ならぬなり。
- 目と日の間に引く電線の局は互のむねにある。
- 目に青葉山ほととぎす初鰹。(素堂)
- 目はかすむ耳に蝉鳴く齒は落ちる雪を戴く老の暮哉。
- 目に聞いて耳に見るなら疑わじ自からなる軒の玉水。(耳に-參照)
- 目には見えねど心の鏡いく代曇らぬ美化の主。
- 目に見えぬ風の姿を月影に映して見する庭の呉竹。
- 目にも見えざる情の主は世界人道の花と咲く。
- 目にも見えない空吹く風は花や紅葉と化けてゆく。
- 目は口ほどに物を言い。
- 目鼻に手足は人竝なれど心一つですたる身ぞ。
- 冥土から若しも迎えが來たならば今日は留守ぢやと云うて答えよ。
- 冥土とて別なる國と思うなよ胸三寸の悟りなりけり。
- 明月や池をめぐりて夜もすがら。(芭蕉)
- 明月や座頭の妻の泣く夜哉。
- 明月や疊の上に松の影。(其角)
- 明月や露にぬれぬは露ばかり。
- 盲らばかりか目明きは居ぬか暗に鐵砲の鉢合せ。
- 盲らよく見よ心の鏡つんぼ聞いたか惡口を.
- めくらめくらと言わんすけれど目あきのめくらが低に多い.
- めぐる月日はそれからそれと終始一貰水車。
- 飯乞いて我が來しかども春の野に菫摘みつつ時を經にけり。(艮寛和尚)
- 飯と汁木綿着物は身を助く其の余は我を責むるのみなり。ハニ宮尊徳)
- 飯櫃の底を叩くや閑古鳥。
- 面壁の九年の春や大欠伸。
- 面壁の祖師の姿は山城の八幡あたりの瓜か茄子か。
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- 盲人は歩く道には迷うとも色の道には迷わざりけり。
- もうかどうかとここ波分けて見れば澄まぬが濁り水。
- 萌えいづるも枯るるも同じ野邊の草いづれか秋に逢わで果つべき。(平家.妓王)
- もたらしの園生の木の實めづらしみ御代の佛にまづ奉る。(良寛和尚)
- 餠は姥酒は伊丹に茶は宇治よ偏に心の所造なりけり。
- もちや搗かぬ家は餠搗く年の暮。
- 元の身は元の所へ歸るべしいらぬ佛を尋ねばしすな。(一休和尚)
- 元よりも心の法はなきものを夢うつつとは何を言いけん。
- 元よりも賜わらざるを賜うこそ本來空の妙味なりけり。
- 元よりも無一物なる我が心神ともなれば佛ともなる。
- 求むれば求むるままに月雪も花も紅葉も玉も錦も。(古歌)
- 物言えは唇寒し秋の風。(芭蕉)
- 物事に執着せざる心こそ無念無相無住なりけり。
- 物の名も所によりて變りけり難波の葦も伊勢の濱荻。
- もの持たぬ袂は輕し夕涼み。
- もみじ葉の散るを見るさえ悲しきに我身に秋の來ると思えば。
- 門前の小家も遊ぶ冬至かな。(凡兆)
- 桃粟三年柿八年梅はすいすい十二年。
- 燃ゆる人をわけても法は聞くべきに雨と風とは厭わざりけり。
- もろこしの山の彼方に立つ雲は此處に焚く火の煙なるらん。(檀林皇后)
- 諸共にあわれと思え山櫻花より外に知る人もなし。(金葉・僧行尊)
- 諸人の食事の元を業として作りいださん幾代經るとも。(二宮尊徳)
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- 八重の山吹はでには咲けど末は實のない事ばかり。
- やがて死ぬけしきは見えず蝉の聲。(芭蕉)
- やがて見よ棒くらわせん蕎麥の花。(宗因)
- 藥鑑さえ心の垢を掃除せず鴈首ばかり磨く世の中。(きせ項參照)
- 燒けば灰埋めば土となるものを何が殘りて罪となるらん。(一休和尚)
- やさしい顏見りや心も角も共に折れ行く言葉まで。
- 宿かさぬ人の辛さを情けにて朧月夜の花の下臥し。(太田垣蓮月)
- 宿屋商賣千客萬來釋迦や孔子も姫ごぜも。
- 宿を借りたや櫻の下に花の主が戀しさに。
- 柳柳で世を面白う、つけて暮すが命の藥、梅に隨い櫻になびく、その日その日の風次第。
- 破れ障子も開けてはおけぬしめて眺めし月と海。
- やぷれかぶれだころがるからは毒も喰うなり皿までも。
- 山家育ちの身を恥じらつて口にやそれ程岩つつじ。
- 山がつの白木の合子(ごうし)そのままに漆つけねば禿げ色もなし。
- 山埋は冬ぞ淋しさ勝りける人めも草も枯れぬと思えば。
- 山里に世を厭わんと思いしは尚深からぬ心なりけり。
- 山里の心靜かに樂しきは來る人もなく訪う人もなし。
- 山城の瓜や茄子をそのままに手向けにせよや鴨川の水。(仙崖和尚)
- 山寺に入相告ぐる鐘の音も宿ある身には心安けれ。
- 山寺に年百年の古狐啼ける姿は元の身にして。
- 山寺の鐘つく僧は見えねども四方の里人時を知りけん。
- 山寺の春の夕暮來て見れば入相の鐘に花ぞ散りける。
- 山の色谷の響もさながらに我が釋迦牟尼の聲ぞ姿ぞ。
- 山の中でも三軒屋でも住めば都の花が咲く。
- 山の瑞に影かたむきてくやしきは空しく過ぎし月日なりけり。
- 山は燒けても山鳥立たぬ子程可愛い者はない。
- 山深く訪う人もなき柴の戸を叩くは夜の嵐なりけり。
- 山深み落ちて積れる紅葉ばの乾ける上に時雨降るなり。
- 山水に米を搗かせて晝寢かな。
- 山居せば四條五泉の橋の上往き來の人をかくれがにして。(坐禪-參照)
- 闇の夜に鳴かぬ鴉の聲きけは生れぬ先の父ぞ戀しき・(一休和尚)
- 闇の夜に目鼻をつけし牛と見れば出づる出でぬは物の數かは。
- 闇の夜に目鼻をつけた牛になれ。
- やみに鐵砲足元みだる結ぶ木の實も散りてゆく。
- 闇夜とて思えたえなん都人用なきとても君は忘れじ。
- 槍はさびても名はさぴぬ昔忘れぬ落し差。
- やれ煽げきつう煽げば灰が立つさつさと煽げ氣をつけてやれ。
- やれ打つな蠅は手をすり足をする。(一茶)
- 八幡山越ゆれば淀の渡舟山崎に降る夕立の雨。
- 山寺の和尚さんは、毬は蹴り(突き)たし、毬はなし、猫を紙袋に投りこんで、ええ、ぽんと蹴りや、にゃんと鳴く、ぽぽんのぽんと蹴りや、にゃにゃんのにゃんと鳴く、ええ、山寺の・・・・・・
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- 悠然として山を見る蛙かな。(一茶)
- 幽靈の正體見たり枯尾花。
- 夕暮の雲すさまじく立ち歸り未だ限りなき遠山の晴。
- 夕立の雲吹き拂う山風に暫しは涼し蝉の聲かな。
- 夕涼みあぶなき石にのぼりけり。(野坡)
- ゆうべ何處へ寢た今宵は此處に明日は田の中草枕(畦枕)。
- 夕燒け小燒けで日が暮れて、山のお寺の鐘が鳴る、お手手つないて皆歸ろう、鳥と一緒に歸りましよう。(童謠)
- 雪中に寒さも知らで雪達磨。
- 雪に口紅照り込む朝日うけて笑顏の梅の花。
- 雪の寒苦をようよう凌ぎ梅も花咲く春に逢う。
- 雪の化粧をさらりと落し素顏自慢の富士の山。
- 雪の肌(はだえ)に霞の帶は人目引きゆく富士の山。
- 雪の肌が(を)ちらちら見え(せ)る越後帷子着た女(お方)
- 雪の肌に氷の刃(やいば)露の命の捨て所。
- 雪は北雨は南に冬至梅。
- 雪はまんまと花ふる淨土とけて嬉しき胸の中.
- 雪降りやあれも人の子樽拾い。
- 雪折れや昔に歸る笠の骨。
- 行いて見よ今鎌倉は麥畑。
- 行き暮れて木の下陰を宿とせば筏や今宵の主ならまし。(平忠度)
- 行秋や身に引きまとう三布蒲團。(芭蕉)
- 行衞さえ知られぬ人の親と子の其の行衞さえいぶせかりけり。(橘香)
- 行く先の宿を其處ぞと定めねば踏み迷うべき道はなきかな。
- 行く水の一夜宿りや薄氷。
- 行くも歸るも身は浮舟の浪にまかせてをちこちと.
- 行くも歸るもよそならず歌うも舞うも法の聲。(白隱和尚)
- 行くも諸共歸るも一緒門に立つのも二人連。
- ゆくりなく一と日一と日を送りつつ六十路余になりにけらしも。
- 豐かなる君が御代こそうたうらん釣する海女も木樵る翁も。
- 指もぬらさぬ疎細の底に生死解脱の主ぞ住む。
- 弓も折れ矢も盡き果てし處にてさしも許さで強く射て見よ。
- 夢さめて衣の裏をけさ見れば珠かけながら迷いぬる哉。
- 夢路越ゆれば浮身を忘れ智惠も學者も一味禪。
- 夢と思えば何でもないがそこが凡夫でネイあなた。
- 夢なれば覺めなと思う嬉しさを寢返りもせず待つぞ樂しき。
- 夢の夜に且つまどろみて夢を又語るも夢もそれがまにまに。(良寛和尚)
- 夢の夜(世)に夢の如くに生れ來て露と消えゆく身こそ安けれ。
- 夢の世に幻の身が(と)生れ來て露(に)宿かるる宵の稻妻。
- 夢の世は夢の夜ながらさりながら。
- 夢の世を悲しむ心あるならば長き未來を忘る果敢なさ。
- 夢さめてさても範かし寢小便。
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- 世の中が四尺五寸になりにけり五尺の體置き處なし.
- 世の中に命長らえ居たくあらば生きとし生ける者を殺すな。
- 世の中に恐ろしき者はなけれども屋根の洩るのと馬鹿と借金。(南畝)
- 世の中に書くべき事を書かずして事をかくなり恥をかくなり。
- 世め中に金と女はかたきなりどうぞ敵にめぐり遇い度い。
- 世の中に酒と女がないならば皆人毎に佛とぞなる。
- 世の中にたえて櫻のなかりせば春の心はのどけからまし。(古今・業平)
- 世の中にたえて女のなかりせば男の心のどけからまし。(蜀山人)
- 世の中にたえて八種の風なくば須彌の心を如何に知るべき。(註、八風)
- 世の中に歎き(難儀)はなきに悦びを求めて遂に歎き(難儀)とぞなる。
- 世の中にハケとハゲとは大違い刷毛に毛があり禿に毛はなし。
- 世の中におもいやれども子を戀うる思いにまさる思いなきかな。(土佐日記)
- 世の中に道こそなけれ思い入る山の奧にも鹿ぞなくなる。
- 世の中に物言う花がなかりせは國を滅す者もあるまじ。
- 世の中の憂きも辛きも今日ばかり昨日は過ぎつ明日は知られず。
- 世の中の憂きを思えばうつせみの我が身のうきは物の數かは。
- 世の中の人と煙草のよしあしは煙となりて後にこそ知れ。
- 世の中の人の心の善し惡しは限りの時にあらわれにけり。
- 世の中の人の心は傀儡師鬼を出せば佛かくるる。
- 世の中の人人皆が佛なら釋迦も達磨も腹は立つまじ。(一休和尚)
- 世の中の譽そしりを厭わねば心安くも墨染の抽。
- 世の中の調べによしやあわずとも我が腹づつみうちて遊ばむ。(高畠式部)
- 世の中の嫁が姑となるなれは人(姑)が佛となるも程なし。(一休和尚)
- 世の中は一日外になかりけり昨日は過ぎつ明日は知られず。(傳教大師)
- 世の中は市のかり屋のたえだえに獨り獨りに歸りこそすれ。
- 世の中は駕籠に乘る人かつぐ人尻の歸さに肩の痛さよ。(古歌)
- 世の中は駕寵に乘る人乘せる人其の又草鞋作る人。
- 世の中は狐狸の化けくらべ尾の出ぬ先に穴へ入るなり。
- 世の中は食うて稼いで寢て起きてさて其後は死ぬる許りぞ。(一休和尚)
- 世の中は心矢走せとはやれどもぜぜ(錢)がなくては暮されもせず。
- 世の中はこその二文字のつけ所治まるもこそ亂るるもこそ。
- 世の中は戀と無常の境橋彼のはしに觸れ我は死に行く。
- 世の中は櫻め花になりにけり。
- 世の中は左樣でそうで御尤もしかと存ぜず御芽出度い事。
- 世の中は生死の道に伴はなしただ淋しくも獨去獨釆。(一休和尚)
- 世の中は捨てじあじろ木の丈くらべそれこれ共に長し短し。
- 世の中は高き賤しきほどほどに身を盡すこそ勤なりける。
- 世の中は互に尻のむくり合い臭氣紛紛鼻先を突く。
- 世の中は只假初の草枕結ぶともなき夢とこそ知れ。
- 世の中は只働くにしくはなし流るる水の腐らぬを見よ。
- 世の中は頼みなきこそ頼みなれ身の憂き事も變る習ぞ。
- 世の中は智惠と文字のこぜり合い我は學ばん馬鹿のど天上。
- 世の中は月に村雲花に風近衞殿には左近なりけり。
- 世の中はとてもかくても同じ事宮も藁屋もはてしなければ。(新古今・蝉丸)
- 世の中は何が常なる飛鳥川昨日の淵ぞ今日の瀬になる。(古今・讀人不知)
- 世の中は何に譬えん水鳥のはしふる露に宿る月影。(道元禪師)
- 世の中は寢るより樂はなかりけり浮世に馬鹿が起きて働く。
- 世の中に寢るより樂はなかりけり浮世の馬鹿が起きて働く。
- 世の中は猫も親父も何もかも土の此けたる稻荷街道。
- 世の中は一重の皮に迷うのみひんめくり見よ美女も醜女(しこめ)も。
- 世の中は乘合船の假住居よしあし共に名所舊跡。(蟻川新右衞門)
- 世の中は貧者有徳者苦者樂者何者彼者とて末は無茶苦茶。(同)
- 世の中は絲瓜(へちま)の皮のだん袋底がぬければ穴へドンブリ。(一休和尚)
- 世の中は窓より出づる牛の尾の引かぬにとまる心ばかりぞ。(道元禪師)
- 世の中は三日見ぬ間の櫻かな。(蓼太)
- 世の中は皆光なりおしなべてくらまして行く人ぞ悲しき。
- 世の中は皆沸なりおしなべて何れの物と分つはかなさ。
- 世の中は無常のものと悟るべし昨日は火事に今日は大水。
- 世の中は娘が嫁と花咲いて嬶としぼんで婆と散り行く。
- 世の中は夢かうつつかうつつとも夢とも知らず有りて無ければ。(古今・讀人不知)
- 世の中は香ばかりぞ梅の花(春)。
- 世の中を厭うともまき住居してなかなかすごき山がつの菴。
- 世の中を牛と思えば憂けれども馬と思えばうまいものなり。
- 世の中をうしと思えば憂けれどもうまと思えば砂糖牡丹餠。
- 世の中を思いまわせば摺鉢の甘い日もあり辛い日もあり。
- 世の中を常無きものと今ぞ知る平城の京師の移ろう見れば。(萬葉集)
- 世の中を何に譬えむ朝びらき榜(こ)ぎ去(い)にし船の跡なきごとし。(萬葉滿誓)
- 世の中を何にたとえむ朝ぼらけ漕ぎ行く船の後の白波。(拾遺・滿誓)
- 世の中を何のへちまと思えどもブラリとしては暮されもぜず。
- 世の中を恥じぬ人こそ恥となり恥ずる人には恥ぞ少き。
- 世の中を渡りくらべて今ぞ知る阿波の鳴戸に波風はなし。
- 世の憂きに比ぶる時ぞ山里の松の嵐もたえて聞かるる。
- 世の爲に蟹なす文字を學ぶとも横走りする人といわるな。
- 世の人が邪險を拔いてかかるとも我良險(量見)の鞘におさめよ。
- 世の人が(は)唯我獨尊大成張り我は氣樂な唯我獨賤。
- 世のわざの濁りそめたる人心文よむ程に清く澄みけり。
- 世は法の山法の海海鼠(なまこ)かな。
- 世渡りは狂言綺語と同じ事上うえも役下じたも役。
- 世經りは口も八丁手も八丁いつも十入鬼に負けるな。
- 世經りは下手と云われて梅柳。
- 世を越えてあまりに人の親しきは終には仲を違えぬはなし。
- 世を捨てた人にもあるか秋の暮。
- 世を捨てて身はなき者と思えども雪の降る夜は寒くこそあれ。
- 世を捨てて山に入る人山にても猶憂き時は何地行くらむ。(凡河内躬恆)
- 世を捨てて山を住家と樂しめば月日の數を知らぬなりけり。(二宮尊徳)
- 世を厭う人とし聞けば假の宿に心とむなと思うばかりぞ。(新古今・妙)
- 夜遊びや朝寢晝寢に遊山ずき引込思案油斷不概氣。(細川忠興)
- 夜もすがら雨と聞きしは古寺の庭に時雨るる落葉なりけり。
- 夜もすがら心の行衞尋ぬれば咋日の空に飛ぶ鳥の跡。
- 夜もすがら唱う三世の御佛の御名は昔の我が名ならずや。
- 夜もすがらともす螢火今朝見れば澤邊の草に灰かかりけり。
- 夜をこめて鷄の空音ははかるとも世に逢板の關は許さじ。(清少納言)
- 宵の間はさわりも多し更けてこそ靜かに月は見るべかりけれ。
- 宵は待ち夜中はうらみ曉は夢にや見んとまどろみぞする。
- 醉の裡にかけし衣の玉ぞとも昔の友に逢うてこそ知れ。
- 要害を内から破る粟のいが。
- 醉う事は天下晴れての花の山。
- 善き友は心の花の添木哉。
- 善きに似よ惡しきに似るな鍋と世の人の心は自在鈎なり。
- 慾垢を洗い落せばさつぱりと襦袢につけし糊ぞ尊き。(蜷川新右衞門)
- 慾深き人の心と降る雪は積るにつけて道を忘るる。
- よく聞けば只三文のことじやげな鬼と閣魔と逃げつころびつ。
- よく見ればなづな花咲く垣根哉。(芭蕉)
- よこしまの非をば恐れて正直を守る人をば神も守らむ。
- 吉田通れば二階から招くしかも鹿の子の振袖で。
- よしあしと思う心を振り捨てて只何となく住めば住吉。
- よしあしと葉を折り敷いて夕涼み。
- よしあしの友を擇ぶが何よりぞ身をほ修むるもとにこそあれ。
- 善し惡しの人を見る目はありけれど我が身の上はうば玉の闇。
- よしあしを思い忘るる世の中のなにわのことも夏のあけ暮。
- よしや唯柴の菴の門びさし久しかるべき此の世ならねば。
- よしや身は武藏の野邊に朽つるとも留めおかまし大和魂。(吉田松陰)
- よしや世に岩根の小松年ふれど待ち見ん程は木枯の風。
- 吉野川其の水上を尋ぬればむぐらの雫萩の下露。
- 吉野山霞の奧は知らねども見ゆる限りは櫻なりけり。(八田知紀)
- 吉野山花も紅葉も散り果てて訪う人もなき冬は來にけり。
- 吉野山峯の白雪踏み分けて入りにし人の跡ぞ戀しき。
- 尋常の人の心は知らねども身の危きに現われぞする。
- 嫁入りの其日の心忘れずば壻や始にきらわれもせず。
- よも散らじ開きて見れば櫻花たとえ扇に風はありとも。
- 喜ぶも歎くもあだに過ぐる世をなどかは厭う心なるらん。
- 夜半に嵐があるとも知らず咲いて笑つた山櫻
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- 我が家は青天井に地の筵月日のあかり風の手箒。
- 我が菴は都のたつみ鹿ぞすむ世を宇治山と人はいうなり。(古今・喜撰)
- 我が菴は松原つづき海近く富士の高嶺を軒端にぞ見る。(太田道灌)
- 我が思う心を君に知らせたや我れも知りたや君の心を。
- 我が戒は何を保たん朝夕に民やすかれと祈るばかりよ。
- 我が影をうつすは水の心とも知らでや鴈の空を過ぐらん。(洪川禪師)
- 我が影を忘れて走る人やある身に添うものと思い知らずば。
- 我が心鏡に映るものならばさぞや姿の醜かるらむ。
- 我が心其儘佛生き佛波を離れて水のあらばや。(一休和尚)
- 我が心何に譬えん飛鳥澄める流れは秋の夜の月。
- 我が子なら供にはやらじ夜の雪。(とめ)
- 我が子なら他處へはやらじ雪の蓑。
- 我が里はどう霞んでもいびつなり。(一茶)
- 我が袖は汐干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし。(千載・二條院讚岐)
- 我が槌は寳打出す槌でなしのらくら者の頭うつ樋。
- 我が法は障子の引手峯の松火打袋に鶯の聲。
- 我が法は柳の絲のもつ(亂)れ髮結うに結われず解(説)くに解(説)かれず。
- 我が身だに我儘ならぬ世の中に人の背くは科ならばこそ。
- 我が身をほ大切にして傷つけな是れ孝行のはじめなりけり。
- 我が身をば善きと思わば惡しきなり惡しきと思う心こそよき。
- 我が物と思えば輕し笠の雪。
- 我が雪と思えば輕し笠の上。(其角)
- 我が宿に養いおける犬だにも打ち罵りて責じとぞ思う。
- 我が宿は柱も立てず葺きもせず雨にもぬれず風に吹かれず.(一休和尚)
- 若い衆命惜しくは死にめされ一度死んだら二度と死なぬぞ。(白隱和尚)
- 若い同志の今世のけんか背中合わせに腹合わせ。
- 若い奴等は弱いと語る今の爺樣よろよろと。
- 別れとは誰が言い初めてなげくらん無きこそ元の姿なりけり。
- 別れ逢うには柳の芽にも惜しむ風情を露に持つ。
- 別れていたとて變らぬ積り實に隔てのない二人。
- 和歌の浦にも名所がどざる一に權現二に玉津島三に下り松四に鹽釜よ。
- 分れても又分れても分れても一つ流れの水と知らずや。
- 分け登る麓の道は多けれど同じ高嶺の月を見るかな。(一休和尚)
- 分けりや二つの朝顏なれど一つにからんで花が咲く。
- 禍の門口なれば上品に胸のしまりを能くするがよい。
- 禍の門口なれば油斷なく内のしまりをとくとようせよ。
- 禍の門は口ぞと心得てあける度度用心をせよ。(最明寺時頼)
- わしが鬼ならお前を飮んで一つ形(身體)にして見たい。
- わしとお前は二枚の屏風離れまいとの鋲を打つ.
- わしとお前は山吹育ち詫は咲いても實はならぬ。
- 鷲の山すぐれて高き峯なれ上なき法のにわと定むる.(寂然法師)
- 鷲の山高根にのみと聞きしかど我が軒端にも有明の月。(註、靈鷲山)
- 忘るなよ春は耕し種かして夏はくさぎり秋はおさめを。
- 忘れじと思いし中は忘られて忘れて後は忘れざりけり。
- 忘れては寒しとぞ思う床の雪を拂う隙なき人もありしに。
- 僅か女の三寸舌に五尺あまりの身をはたす。
- 私しや心を柳ともつてどんな無理にも逆らわぬ。
- 私しやあなたに氣は張り楓鹿じやなけれど啼きあかす。
- 私しや伊吹の蓬(よもぎ)じやないが燃ゆる思いに身をこがす。
- 私しや伊吹の灸ではないが燃ゆる思いに身をこがす。
- 私しや十五の花なら蕾だれの情で開くやら。
- わたしやお前にもりつぶされて風に吹かれているわいな。
- わたしや大島一重の櫻八重に咲く氣は更にない。
- わたしの口から惡口言うて人に褒めさせ蔭で聞く。
- わたしをば離れて見れば心ほど明るき鏡世になかりけり。
- わびぬれば心は澄めり草の菴一日一日を送る送るばかりに。(良寛和尚)
- 我死なば燒くな埋めるな野に捨てて痩せたる犬の腹をこやせよ。(光明皇后)
- 我と言う心の鬼が募りなば何とて福は内に入るべき。
- 我という小さき心捨てて見よ三千世界に障るものなし。
- 我と釆て遊べや親のない雀。(一茶)
- 吾と愼む心の庭に月も宿れば花も咲く。
- 我ながら嬉しくもあるか阿彌陀のいます御國に行くと思えば。
- 我は只後生の願知らぬなり阿吽(あうん)の二字のあるに任せて。
- 我れ舞うて我に見せけり月夜景。
- 我もなく人もなければ大虚空ただ一休の姿なりけり。
- 我も人も一息毎に近寄るぞ地獄の道か彌陀の淨土か。
- 吾れ善きに人の惡しきは無きものを人の惡しきは吾惡しきなり。